フルートベール駅で
未だに根強い人種差別と、日常のすばらしさに気づく
※ネタバレ記述あり
「フルートベール駅で」は2014年に公開されたライアン・クーグラー監督の長編デビュー作です。
主演はマイケル・B・ジョーダン。2009年に起きた「オスカー・グラント三世射殺事件」を題材にアメリカに根強く残る人種差別、またオスカー・グラントの人間性にも深くスポットを当てた作品です。
丸腰の黒人男性が警察官に射殺される「オスカー・グラント三世射殺事件」という実話を映画化した作品。言葉が出てこない。。圧倒される映画でした。
アメリカに今も根強く人種差別が存在していることを実感させられます。
監督のライアン・クーグラーは本作が長編デビュー作。
デビュー作にして第66回カンヌ国際映画祭のある視点部門で第1回作品賞を受賞するなど、今作は絶賛されています。
映画の中で分かるオスカーの人生は、ドラッグの売人だったことから、刑務所に服役、出所後スーパーの従業員になるも、遅刻のせいで二週間前に解雇というもの。
しかし、 子煩悩であり、また母親への誕生日のお祝いを欠かさないなど、家族や友人など周囲の人物を愛し、根は優しい人物であることがわかります。
決して順風満帆とはいかない人生ながらも、諦めずに真っ当に再起を目指していた矢先、フルートベール駅でオスカーは警官に銃撃され、帰らぬ人となります。
人種差別問題を浮き彫りにするとともに、オスカーの人生を前向きに生きようとしていた姿勢は悲劇と対照的に美しく、かつその日常の人生は私たちと何ら変わらないということに強く惹かれます。
フロントランナー
私達も含めたメディアの在り方を問いかける作品
アメリカの1988年の大統領選挙で「ジョン・F・ケネディの再来」と呼ばれ、最有力候補と言われたゲイリー・ハート。彼がたった一つのスキャンダルによって転落していく様を描いている作品です。
トランプ政権誕生以降、マイノリティをもっと認めよう!みたいなメッセージの映画がとても多くなっているイメージなのですが(同じくヒュー・ジャックマン主演の『グレイテスト・ショーマン』などはその顕著な例ですね)、今作はメディアの公人への過度なプライバシーの追求の是非と、それを私達はどう受け止めるべきかという問い。
誰も今までの自分の過去や構想に対して、完璧な人間などいません。
ゲイリー・ハートは映画のエンディングで自身をこう振り返ります。
「私は間違いを犯した。それは私が人間だからだ。」
またヒュー・グラントは自身が演じたゲイリー・ハートのスキャンダルと転落について、こう述べています。
この映画が描くテーマのひとつは、ゲイリーのように人に奉仕する人生がパンチライン(ジョークのオチ、人の関心を煽るわかりやすいフレーズ、謳い文句)に終わってよかったのかということ。それも、事実かどうかも分からない疑惑のために。
本当に報道が事実だったとしても、それって(ゲイリーの政治人生を)全ておしまいにするほどのものなのでしょうか。最近は、失敗に対してもずいぶん寛容になったと思います。誰でも失敗はする。例えばバーニー・サンダースが支持されるのは、彼の言葉に嘘偽りがないからです。
「この映画では、”やったかどうか”ということは問われません。問うているのは、“その質問は果たして必要だったのか”ということ。例えば、自分が明日手術を受けるとします。でも執刀医に”お宅の結婚生活はどうですか”なんて絶対聞かないですよね。それはどうでもいいこと。自分の命がかかっているんですから、腕のいい執刀医かどうかだけを知りたいはずです。でもどういうわけか、これが政治家になると、夫婦の仲はどうだとか、どんな犬を飼っているんだ、とかが気になってしまう。そういう点を突く映画です。」
出典:https://theriver.jp/frontrunner-hugh/
【インタビュー】映画『フロントランナー』ヒュー・ジャックマンが解説 ─ 「この映画は答えを与えない」何が重要なのか分からない世の中へ | THE RIVER
そういう意味で、今作のキャッチコピー「裏切ったのは ―― マスコミか、国民か、それとも彼自身か」は正に秀逸と言えます。
日本でも、政治家の本質は関係のないところで、政治家の資質が問われるという奇妙なニュースがありました。(カップ麺の値段を知らない、漢字が読めないなど・・・。)
映画の舞台は1988年・・・今から30年前ですが、今やだれもがSNSなどで情報発信者(劇中の言葉を用いれば「狩人」)になれる現在、『フロントランナー』もやはり2019年ならではの意味を持った作品だと思います。
『フロントランナー』はメディアはどうあるべきか、公人はどうふるまうべきか、国民はどう判断するべきか、そのどれにも敢えて明確な回答を示しません。
よくも悪くも分かりやすいエンターテインメントが氾濫する今、映画を観終わった後でふと立ち止まって考えさせてくれるような作品は貴重だとも言えます。
トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
これぞ教養映画!戦後アメリカの共産主義弾圧と赤狩りをハリウッドの例から読み解く
「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」は2015年に公開された実話を元にした映画です。
監督は「ミート・ザ・ペアレンツ」シリーズのジェイ・ローチ、主演はブライアン・クランストンが務めています。
ハリウッド黄金期に活躍し、戦後赤狩りに巻き込まれた脚本家ダルトン・トランボの名誉回復までの戦いを描いています。
アメリカとソビエト連邦が世界のリーダーの座を巡って争った冷戦。
それは言い換えれば資本主義と共産主義のどちらが世界の覇権を握るかという戦いとも言えるでしょう。
第二次世界大戦当時の共産主義の行き着く先は国家の否定と革命でした。
ソ連の台頭を恐れたアメリカでは戦後すぐにジョセフ・マッカーシーの主導のもと、共産主義者をあぶり出す『赤狩り』が始まるのでした。
元々反体制側の人間も多かったハリウッドもその例外ではなく、今作で取り上げられているダストン・トランボをはじめとする「ハリウッド・テン」、喜劇王として有名なチャールズ・チャップリンらがハリウッドから追放されました。
1954年には世論の反発によりジョセフ・マッカーシーに事実上の不信任が突き付けられ、「赤狩り」も終焉を迎えます。60年代に入るとダストン・トランボをはじめとして追放された人々の名誉回復の動きも出てきますが、一方で共産主義者の名前を「密告」した映画人には「密告者」のレッテルが現在に至るまでのしかかってもいます。
※詳しくは『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』の解説レビューを読んでください。
藤えりか著『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつきオリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』の中で、赤狩りの被害に遭った映画音楽奏者の父を持つ指揮者、レナード・スラットキンは当時の赤狩りについてこう述べています。
「ハリウッドに共産主義者がいたとしてそれが何だっていうんだ?いい映画、いい映画音楽を作るだけで誰も傷つけたりなんかしていない。
当時の米国社会は怯えていた。いま世界中で起きていることと同じだ。」
そう、『トランボ』のメッセージは今の世界にも共通する声なのです。
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