「バスケットケース」は1982年に公開されたフランク・ヘネンロッター監督のカルトホラー映画。
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「バスケットケース」のスタッフ・キャスト
監督
フランク・ヘネンロッター
製作
エドガー・イエヴィンス
製作総指揮
アーニー・ブルック
トム・ケイ
脚本
フランク・ヘネンロッター
出演者
ケヴィン・ヴァン・ヘンテンリック
テリー・スーザン・スミス
ビバリー・ボナー
「バスケットケース」のあらすじ
大きなバスケット・ケースを抱えてニューヨークへやって来た青年、ドウェイン。
若者には似つかわしくない大金と不自然に大きなバスケットケースをホテルの主人は訝しがりる。ドウェインがやってきたのには目的があった。それはある医者を殺すため。
医者のいる病院に下調べに来たと時に受付の女性から声を掛けられるなど、ドウェインは新しい場所での暮らしを楽しんでいた。
一方のバスケット・ケースの中には彼の奇形の兄、ベリアルが入っていた。ドウェインとベリアルはかつては結合双生児として生まれたが、ベリアルを憎んだ父親により、無理やり分離手術を受けされられ、ベリアルはごみ袋に入れられて捨てられるという過去があった。
ドウェインはベリアルからのテレパシーによって彼を救出、父を殺した。べリアルは極端な奇形ながらも、言葉を理解し、教育も受け叔母の下で弟のドウェインとともに暮らしていたが、叔母の死後ドウェインはバスケットケースにベリアルを入れ、二人は分離手術をした医者への復讐を果たしにニューヨークへやってきたのだった。
感想・レビュー
MoMAも認めたカルトホラー
今やMoMAにも登録された実績をもつ、カルトホラー映画です。
全体的にチープで、80年代の作品とすら思えないようなクオリティの映画です。
大きなバスケット・ケースを抱えてニューヨークへやって来た青年、ドウェイン。
バスケット・ケースの中には彼の奇形の兄、ベリアルが入っています。
ドウェインとベリアルはかつては結合双生児として生まれましたが、それを憎んだ父親により、無理やり分離手術を受けされられ、ベリアルはごみ袋に入れられて捨てられるという過去がありました。
ドウェインはベリアルからのテレパシーによって彼を救出、父を殺した後、バスケットケースにベリアルを入れ、二人は医者への復讐を果たしに旅に出ます。
カルト映画化の要因
今作をカルトホラーたらしめているのはそのチープなクオリティとそれと反比例するかのごとく胸を打つストーリー。
奇形の兄、べリアルの造形は愛おしささえ感じるほど適当ですし、動き回る様子はカクカクしたコマ送りのストップモーションで表現しています。
ストップ・モーションには欠点があり、滑らかな動きを出すためには当然多くのコマが必要になるため、膨大な時間がかかります。
一例として、1954年の『ゴジラ』は当初ストップ・モーションでの撮影が検討されていましたが、その時間と費用の面から着ぐるみ方式に変更されたという逸話があります。
そのようなストップ・モーションのコストに関して、『バスケット・ケース』と同じく80年代の低予算映画(とは言っても本作ほどではないでしょうが)の『ターミネーター』では、ターミネーターが足を負傷した設定にし、コマの少ないストップ・モーションのカクカク感を逆に活かせるようにしたというアイデアがありました。
当然本作『バスケット・ケース』にそんな工夫がされるわけもなく、単純にコマが足りていないので、終始理由なくカクカクした動きをする兄、べリアルになってしまいました。
また、べリアルが人を襲うシーンでは、べリアルはただの人形なので、襲われる俳優自身がうまくべリアルを動かして『べリアルに襲われる一人芝居』をするという方法が採られました。
『エド・ウッド』との共通点
この撮影方法、どっかで観たなと思ったんですよ。それはティム・バートンの『エド・ウッド』のなかのワン・シーン。名優ベラ・ルゴシが大タコと戦う場面の演技指導の時、エド・ウッドは大ダコをベラ・ルゴシ自らが動かして、あたかも大ダコと戦っているように見せろと言います。
最低映画監督と呼ばれ、その監督作品があまりのチープさゆえにカルト化しているエド・ウッド。
『バスケット・ケース』も同様にチープさゆえにカルト映画として名声を高める結果になりました。
人間として生まれてきた哀しみ
それでもこの映画には胸を打つ何かがあります。
それがなければここまでカルト映画として評価されなかったはずです。
それは『人間として生まれてきた哀しみ』。
べリアルは極端な奇形ながらも、言葉を理解し、教育も受け、暴力的で衝動的な面もあるものの人間として生きていました。
劇中でそんなべリアルを人間として扱うのは死んだ叔母と弟のドウェインだけです。
実の父親には化け物扱いされ、ゴミ袋の中に入れて捨てられ、教育を施してくれた実の叔母も亡くなり、べリアルの理解者は弟のドウェインだけに。
しかし、ドウェインは復讐の最中、ある女の子に恋をします。
ずっと一緒だったドウェイン。彼だけが普通の生活を手に入れることができ、自分には人並みの恋すら叶わない。
べリアルは復習を終えたそのあと、ドウェインへの嫉妬からドウェインの彼女を殺害します。
彼女の部屋に向かったドウェインが見たのは裸の死体の上で性行為の真似事をしている兄の姿でした。
べリアルの狂気と哀しみが強烈に伝わる名シーンです。
べリアルが自らの性的欲求を果たすには、自身のその容姿ゆえにもはや相手を殺すしかない。
しかし、それを行ったところで奇形であるべリアル自身には欲求を果たす身体的機能もないのです。
ドウェインは兄のべリアルに怒りを爆発させます。『僕の好きになる人を全員殺す気か!』と。
このドウェイン、他のサイトを見てると人物説明として気が弱いだとか、兄の言うことに従うだけの、などの言葉が並びますが、実際に映画を観るとそこまで気弱な人物には思えません。
この兄弟喧嘩のときに兄のべリアルがドウェインの股間をつかんでいるのはべリアルとドウェインの違いを象徴的に示しているような気がします。
二人は揉み合い、窓から転落しますが、べリアルが必死に片方の手でドウェインを片方の手で看板をつかみ、ドウェインが落ちるのをなんとか防ごうとしています。
最後の最後でべリアルの兄としての優しさ、二人の兄弟の絆が感じられる名場面。
チープさに似つかわしくない「美しさ」
『バスケットケース』がカルト化し、今も根強い人気を誇るのは、チープさとそれに反比例するストーリーの美しさでしょう。
ラストシーン、とうとう力尽きたべリアルはドウェイン共々落下。
二人は一緒に亡くなるというエンディングです。
※続編で二人とも生きていたという設定にはなるものの、やはりムリヤリ感が拭えません。
決して普通にはなれないべリアルの哀しみと、兄弟という切り離せない絆。
チープ過ぎてあまり怖くないのでホラー苦手な人でも恐らく大丈夫かと思います。
この物語はきっと心に哀しく深く残る、そんな後味を感じる映画です。
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