【ネタバレ レビュー】「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」これぞ映画の奇跡!

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は2019年に公開されたクエンティン・タランティーノ監督、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット主演のアメリカ映画です。

1960年代のハリウッドの映画界で生きる二人の男をシャロン・テート殺害事件を題材に描いています。タランティーノにとっては9作目の監督作品です。

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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のスタッフ・キャスト

監督
クエンティン・タランティーノ

脚本
クエンティン・タランティーノ

出演者
レオナルド・ディカプリオ
ブラッド・ピット
マーゴット・ロビー

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のあらすじ

リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)はピークを過ぎたTV俳優。映画スターへの道がなかなか拓けず焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)は彼に雇われた付き人でスタントマン、そして親友でもある。

目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに精神をすり減らし情緒不安定なリックとは対照的に、いつも自分らしさを失わないクリフ。この二人の関係は、ビジネスでもプライベートでもまさにパーフェクト。しかし、時代は徐々に彼らを必要とはしなくなっていた。

そんなある日、リックの隣に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してくる。落ちぶれつつある二人とは対照的な輝きを放つ二人。

この明暗こそハリウッド。リックは再び俳優としての光明を求め、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演する決意をするが—。

出典:映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ
http://www.onceinhollywood.jp/

感想・レビュー

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットの共演でも話題になりましたね。

レオナルド・ディカプリオは『ジャンゴ 繋がれざる者』に、ブラッド・ピットは2009年の『イングロリアス・バスターズ』でそれぞれタランティーノ監督作品に出演していることもあって、この二人のダブル主演もタランティーノならではという感じがします。

さて、今作は60年代のアメリカ社会に影を落とす、チャールズ・マンソンとそのファミリーによるシャロン・テート殺害事件を題材にしています。



チャールズ・マンソン

チャールズ・マンソンといえば、ロックミュージシャンのマリリン・マンソンの芸名の由来にもなるほど、アメリカにおいては有名なカルト犯罪者。

ミュージシャンとしても活動していたチャールズ・マンソンの曲はガンズ・アンド・ローゼズ、マリリン・マンソンにもカバーされています。

2017年に獄中死。逮捕されてから約47年間、累計12回の仮釈放申請が出されていましたが、いずれも「依然として他者に理不尽な危険を及ぼしており、接触する人間に危害を加える恐れがある」という理由で却下。

今作はチャールズ・マンソンが亡くなったからこそ作れた映画ではないかとも思います。

リック・ダルトンとクリフ・ブース

さて、映画の中身は50年代に絶頂期を迎え、今は落ちぶれかけている、レオナルド・ディカプリオ演じる俳優のリック・ダルトンと、そのスタントマンとしてリックをサポートする、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースの物語。

落ち目の現実に対して情緒不安定になっていくリックと、彼を慰めながら自らもまたスタントマンとしての再起を願うクリフ。

彼らとは対照的にリックの家の隣に越してきたのは世界的な名声を得つつある映画監督のロマン・ポランスキー。彼の新妻でもあるシャロン・テートにも、ハリウッドでの成功は目前に迫っていました。シャロン・テートを演じたのはマーゴット・ロビー。ハリウッドをのびのびと楽しむ、無垢な存在として描かれるシャロン・テートとその日常。マーゴット・ロビーはシャロン・テートをとてもキュートに演じてみせています。

60年代のハリウッド

本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で60年代の映画界を描きたかったというタランティーノ。自身も1969年当時はロサンゼルスにいたそうです。

60年代の映画界を描く一例としては西部劇の隆盛と衰退の始まりがリック・ダルトンを通じて見えてきます。

映画の舞台は1969年のハリウッド。すでに西部劇が映画のジャンルとして高い人気を誇ったのは過去の話。

リックはアメリカで映画俳優への転身を図りますが上手くいきません。しかし同時にイタリアで西部劇映画への出演の話が決定。これは60年代から70年代にかけて盛り上がりを見せたマカロニ・ウエスタンを示しています。

実際にクリント・イーストウッドはこのマカロニ・ウエスタンからキャリアを築き上げ、現代ものの『ダーティ・ハリー』など様々なジャンルに軸足を広げることにも成功しました。

ちなみに今作のタイトル『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はセルジオ・レオーネ監督の遺作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』へのオマージュ。

セルジオ・レオーネは世界にマカロニ・ウェスタンブームを巻き起こした監督でもあります。




ヒッピーカルチャー

また、60年代の象徴として描かれているのがヒッピーカルチャー。

既存の社会システムに反発し、愛と平和と自由を叫んだ彼らですが、その中に登場したのがチャールズ・マンソンでした。当時のマンソンの風貌がヒッピーのそれと似通っていたとも言われています。

映画の中ではヒッピーの中の過激派が事件を起こしたようにも見ることができますが、実際はマンソンの教義が一部のヒッピーカルチャーと共鳴し、彼らから狂信的な支持を得たと見るのが正確かと思います。

タランティーノの「救済」

『イングロリアス・バスターズ』では史実を無視し、ヒトラーの暗殺に成功する結末が用意されていますが、今作においてもタランティーノは事実を無視し、スクリーンの中に幸せなシャロン・テートを焼き付けます。

もし、1969年のハリウッドにリック・ダルトンやクリフ・ブースたちが本当にいたらー。

黒づくめのコスチュームに身を包み、もはやヒッピーではなく、狂信的な犯罪者としてリック邸を強襲するマンソン・ファミリー。

彼らを返り討ちにするのはブラッド・ピット演じるクリフ・ブース。
彼の強さを証明するように劇中にはブルース・リーとの一騎討ちの場面も用意されています。

『ファイト・クラブ』ではジークンドーの構えも見せたブラッド・ピットが今作ではそのブルース・リーと対峙するなんて!



実際にはシャロン・テートはマンソン・ファミリーに母子ともども殺害されますが、今作ではブラッド・ピットが容赦なくマンソン・ファミリーを惨殺。クリフはドラッグによってトリップ状態になっているという設定もあって、この返り討ちは過剰に暴力的で残酷。このあたりの残酷描写は流石のタランティーノ。

ドラッグがキマっているせいか、女性に対しても容赦のないクリフ。
このあたりのグロテスクな描写もすべてギャグとして演出されています。

顔面を切り裂かれ、クリフの飼い犬に襲われ、半狂乱になった犯人グループの一人に驚いたリックが火炎放射器で彼女を燃やすシーンなんてやりすぎで正にギャグシーン。
僕は 思わず笑ったんですが、周りの観客は誰も笑ってなかったな。。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中ではポランスキー邸に侵入する前に、リック・ダルトン邸に押し入ったばかりにマンソン・ファミリーは全員殺害され、シャロン・テートは無事に1969年8月9日を乗り越えます。

『イングロリアス・バスターズ』では暗殺成功に対してはカタルシスが感情としては強いのですが、今作では救済という感覚がしっくりきます。

現実でのシャロン・テート殺害の凄惨さ、残酷さを知っているからこそ、このタランティーノの救済には泣けました。まさに映画の奇跡。

映画の奇跡

襲撃事件が落ち着き、シャロン・テートに誘われ、リックがポランスキー邸に招かれるシーンで映画は幕を閉じます。

それは、「現実」では奪われてしまった、幸せな未来。

「ラスト13分 タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす」公式サイトにありますが、この最後があればこそ、今作は一気に多幸感を観る人に与えるのです。

物語がなかなか進まない、いつものタランティーノ節もまた健在。(タランティーノの脚フェチも!)

個人的には2019年公開作品の中でー番満足できた作品。観る人を選ぶタイプの映画だとは思いますが、おすすめの一本です。

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