「太陽を盗んだ男」は1979年公開の日本映画。主演は沢田研二と菅原文太。
一介の中学教師が原爆を作り、日本を脅すという怪作で、邦画におけるカルト映画の傑作でもあります。
「太陽を盗んだ男」のスタッフ・キャスト
監督
長谷川和彦
脚本
長谷川和彦
レナード・シュナイダー
原作
レナード・シュナイダー
音楽
井上堯之
出演者
沢田研二
菅原文太
池上季実子
北村和夫
「太陽を盗んだ男」のあらすじ
中学校で理科を教えている無気力で孤独な青年、城戸誠。彼はある時、生徒とのバス旅行の帰りにバスごと特攻隊の格好をした老人にバスジャックされる。その時に自分と生徒を身を挺して守った刑事の山下に誠はどこかシンパシーを感じていた。
城戸誠は老人に扮し、交番の警官から拳銃を強奪。そして東海村の原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、自宅のアパートで原子爆弾の製造に着手します。そして完成した原爆を武器に、誠は警察に対してプロ野球のナイター中継を最後まで見せろと要求。自宅でナイター中継を見ていた誠はナイターが最後まで中継放送されたことに歓喜する。
続いて誠は、愛聴していたラジオのDJ、ゼロのアイデアから閃いたローリング・ストーンズの日本公演の実現をラジオ番組を通じて要求する……。
感想・レビュー
前述のとおり、一介の中学教師が原爆を作り、日本を脅すというある意味不謹慎とも、タブーを冒すともいえるショッキングな設定と都会で孤独に生きる男の鬱屈が爆発したような内容で、長らくカルト映画の名作として取り上げられる作品です。
ずっと気にはなってたのですが、今回ようやく見てみました。
昭和のエネルギー
画的なクオリティや迫力で比較するならば、原題の映画の細かいカット割りやCG全盛の作品の方が面白く感じられると思いますが、「太陽を盗んだ男」は無鉄砲とも思える、今の時代だと炎上すらしかねない内容で、昭和のエネルギーを感じさせます。
今作で沢田研二が演じる城戸誠は特定の交友を持たず、ただ孤独で退屈な単調な毎日を過ごしています。彼は「政治的無関心・個人生活優先・心理社会的モラトリアム」に代表される、いわゆるしらけ世代を感じさせる青年であり、当時の若者の一側面を表してもいたのでしょう。
そんな彼が原子爆弾を作ったことも、映画では明確な理由には言及されません。
作り終えてから「原爆を使って何をしようか」と考える、その無計画さと相まってより城戸誠というキャラクターの社会にあって「浮遊する個」を強調しているようにも思えます。
アナーキーを地で行く作品
今作のほとんどのロケが許可を得ない無許可のゲリラ撮影だったと言われています。
①皇居前の撮影
作品序盤のバスジャック犯が特攻隊の格好で主人公の城戸誠とその生徒の乗るバスを皇居に向かって走らせる、序盤の大きな見せ場の一つですが、実際には一番最後に撮影されました。
その理由は「逮捕される可能性が高かったから」。
撮影後は留置所かもしれないと、みんな歯ブラシ、手ぬぐいを持って撮影に挑んだという逸話があります。
②国会議事堂前のゲリラ撮影
日本政府を脅すために沢田研二演じる城戸誠が妊婦の姿に女装して、原爆のダミーを持って国会議事堂へ向かうシーンも実は撮影許可が下りずゲリラ撮影。何と画面に映っている建物や警備員は全て本物。
ここでは相米慎二率いるB班が「逮捕され要員」として待機させられたという逸話があります。
②首都高のカーチェイス
城戸誠の駆るスポーツカー、サバンナRX-7と、菅原文太演じる刑事、山下満州男と何台ものパトカーとのカーチェイスが今作のアクション的には最高潮の場面でしょう。
途中、ヘリからの空撮映像も入るのですが、首都高でこれほど大掛かりな映画撮影がなぜできたのでしょうか?
恐るべきことに、この首都高撮影も無許可のゲリラ撮影。
わざとのろのろ遅くクルマを走らせ、後続車の流れを止めて、その前何キロかを空けて撮影したとのことです。
長谷川和彦監督によると、「製作担当は、延べ2、30名パクられている」とのこと。
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原子力と原爆
日本は戦後すぐの時期はGHQによって原子力の研究が禁止されました。
しかし1952年サンフランシスコ講和条約の発効によって原子力研究は解禁、1951年に連載開始された「鉄腕アトム」はその動力を原子力としていました。
当時の日本人にとって原子力はまさに未知なる夢のエネルギーでもあったのでしょう。
1956年6月に日本原子力研究所(当時)が設立され、その研究所が茨城県東海村に設置されました。城戸誠がプルトニウムを盗み出したのもこの東海村の原発からでした。
「鉄腕アトム」のテーマを口ずさみながら原爆を作り続ける城戸誠。
原爆を完成させた城戸誠は原爆を盾に警察に
①ナイター中継を最後まで放映すること
②ローリングストーンズんp日本公演
③現金5億円
など様々な要求を叩きつけていきます。
城戸誠にとって原爆を作るということは、個人がある意味で国家を凌ぐ存在になれる証明のための「夢」だったのでしょう。
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