『太陽を盗んだ男』は1979年公開の日本映画。主演は沢田研二と菅原文太。
一介の中学教師が原爆を作り、日本を脅すというある意味不謹慎とも、タブーを冒すともいえるショッキングな設定と都会で孤独に生きる男の鬱屈が爆発したような内容で、長らくカルト映画の名作として取り上げられる作品です。
その内容と同様に、いやそれ以上に、この作品の制作現場ではハチャメチャな裏話や撮影秘話が多かったので、まとめてみました!
皇居前広場で無許可ロケ
作品序盤のバスジャック犯が特攻隊の格好で主人公の城戸誠とその生徒の乗るバスを皇居に向かって走らせる、序盤の大きな見せ場の一つですが、長谷川和彦監督曰く「皇居前広場に無許可で忍び込んで一発撮りした、いわばゲリラ撮影だった」とのこと。
そのうえ「思ったよりバスの速度が出なかったため、突撃とならず、皇居係員ものんびり誘導に出てきた程」「仕方がないのでコマを抜いて速く見せた」との裏話も。
なお、シーンとしては作品序盤の出来事ですが、実際には一番最後に撮影されました。
その理由は「逮捕される可能性が高かったから」。
撮影後は留置所かもしれないと、みんな歯ブラシ、手ぬぐいを持って撮影に挑んだという逸話があります。
制作費がスタート時から1億7000万円足りなかった
今作の製作費は3億7000万円でスタートしましたが、実はその時から1億7000万円足りていませんでした。撮影中、膨れ上がる制作費に対し、プロデューサーの山本又一朗は途中で破産の危機を感じたと言います。
本作の制作費を補填する目的で作られたのがアニメ映画『がんばれ!!タブチくん!!』なのだそう。
ゲリラ撮影では「逮捕」要員のスタッフが待機
日本政府を脅すために沢田研二演じる城戸誠は妊婦の姿に女装して、原爆のダミーを持って国会議事堂へ向かいます。このシーンも実は撮影許可が下りずゲリラ撮影。何と画面に映っている建物や警備員は全て本物。隠し撮りされたものをそのまま映画でも使ったそうです。
ここでは相米慎二率いるB班が「逮捕され要員」として待機させられたという逸話があります。
首都高撮影でも2、30名パクられている
城戸誠の駆るスポーツカー、サバンナRX-7と、菅原文太演じる刑事、山下満州男のと何台ものパトカーとのカーチェイスがアクション的には最高潮の場面でしょう。
途中、ヘリからの空撮映像も入るのですが、首都高でこれほど大掛かりな映画撮影がなぜできたのでしょうか?
恐るべきことに、この首都高撮影も無許可のゲリラ撮影。
わざとのろのろ遅くクルマを走らせ、後続車の流れを止めて、その前何キロかを空けて撮影したとのことです。
当初、カースタント担当の三石氏は、遅く走らせる用のクルマとして大型トラックを4台用意して欲しいと要望しました。なぜなら大型車なら、後続車に渋滞の原因が何なのか確認できないから。しかし予算の関係で用意されたのはなんと小型車。当然後続車に渋滞の原因が何なのかも丸わかり。
渋滞の原因が映画撮影ということで製作チームは怒鳴られまくったそうです。
長谷川和彦監督によると、「製作担当は、延べ2、30名パクられている」とのこと。
黒板に書いてある原爆製造の数式は全て本物
中学の理科教師である城戸誠。
授業の一環として「原爆の作り方」を講義しますが、その際に黒板に書かれた原爆製造の数式はすべて本物。
監督曰く、このシーンのリアルさを出すために、みんなで必死になって勉強したそう。
それはスタッフはその気になれば実際に原爆を作れたと語るほどです。
いきなりヘドロの海に飛び込ませられた池上季実子
1971年のカルト映画『ゴジラ対ヘドラ』でも象徴されているように当時は公害の影響により、今より自然が汚かった時代です。当時の東京湾もヘドロいっぱいの汚い海でした。今作でラジオDJのゼロを演じたヒロイン、池上季実子は撮影現場に到着するなり、長谷川和彦監督から「池上さんが東京湾に放り込まれるシーンから撮影する」と言われてしまいます。
この指示にはにはさすがに池上季実子のマネージャーと長谷川和彦監督、スタッフと間で緊急討論が持たれ、結果
①リハーサルで助監督による安全確認
②すぐそばにお風呂を用意する
という条件が付けられました。
このシーンを演じ切った池上季実子は後年「スタントなしで当時の東京湾に飛び込んだのは、今では20歳の貴重な思い出になっている」と語っています。