シンデレラで0時の鐘が鳴り、魔法が解けるように、日付が変わればアン王女もジョーとの未来を諦め、王位継承者としての役割を果たさなければなりません。
果たして魔法は解け、夢のような時間は終わりますが、二人は翌日に再会します。
王女と新聞記者というそれぞれの真実の姿で。
とある記者にアン王女は間の友好関係について今後の見通しはどうですか、と質問されます。
「守られると信じます 個人の関係が守られるのと同様に」
その言葉に対して、ジョーがこう付け加えます。
「わが通信社の見解を申しますと、王女様の信頼は裏切られないでしょう」
実はここには二つの意味があります。
ひとつは世界の友好の可能性。
前述の通り、ローマを擁するイタリアは戦時中ファシスト国家でありました。
そんな国家ともまた友好関係を結べるのか。いや、その架け橋となるのが自分の役割ではないか。
自分の使命に気づいたアン王女は、この時、自分の言葉で記者たちに、そして彼らを通じて世界に語りかけています。
世界の友好は実現できると。
もうひとつはジョーがアン王女と過ごした時間は口外されないのかという意味。ジョーの職業は新聞記者。そのことに対してジョーは信頼が裏切られることはないと言っているのです。
『願いの壁』の言葉にあった実現できない願いとはジョーと過ごす未来でしょう。
しかしジョーとの交流で初めて知った「愛」によって、ただの丸暗記した言葉ではなく、実感を伴った生きた言葉として、国同士の友好も心から信じられるようになったのです。
赤狩りが吹き荒れていた当時、ワイラーは協調のメッセージをこのラストシーンに込めたと言います。
立場の違うものであれど、未来のために協調するべきだと。
その勇気の言葉は個人的なハッピーエンドを超えた結末と相まって鮮烈なメッセージを当時の観客に与えたことでしょう。
いつの時代にも響く力強いメッセージ
それから60年。『ローマの休日』の持つその普遍性を備えたメッセージはいつの時代にも響く言葉となりました。
オードリー・ヘプバーンの魅力をそのまま閉じ込めた映像とともに、『ローマの休日』が名作となった背景には時代を超えて響く力強いメッセージがあったのだと思います。