『エル ELLE』は2016年のフランス映画。監督はポール・ヴァーホーヴェン、主演はイザベル・ユペール。
「強い女性」に関してのヴァーホーヴェン流の回答といった作品でしょうか。
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『エル ELLE』のスタッフ・キャスト
監督
ポール・ヴァーホーヴェン
脚本
デヴィッド・バーク
原作
フィリップ・ジャン
『Oh…』
製作
ミヒェル・メルクト
サイド・ベン・サイド
出演者
イザベル・ユペール
クリスチャン・ベルケル
アンヌ・コンシニ
ロラン・ラフィット
『エル ELLE』のあらすじ
新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェルは、一人暮らしの瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。
出典:https://gaga.ne.jp/elle/
映画『エル ELLE』公式サイト
感想・レビュー
2017年、ハリウッドでのセクハラ問題に端を発してMetooの運動が巻き起こりました。
それと同時にハリウッドでの女性差別に広く注目が集まりした。その一つが年齢による役柄の制限。
男性俳優であれば幾つであっても恋愛映画の主役になれますが、年を重ねた女優がヒロインの座を射止めることは決して易しいことではありませんでした。
アカデミー賞主演女優賞最多記録を持つメリル・ストリープは2011年雑誌ヴォーグの取材に対して、『40歳を越えたとたん、魔女の役に立て続けに3つもオファーされた』と発言しています。また、マギー・ギレンホールも『55才の男性の恋人役に当時37歳だった自分では「年を取りすぎている」と言われた』と言葉を残しています。
では、ハリウッドじゃなくフランスなら?
ミシェル
今作『エル ELLE』で主演を務めたイザベル・ユペールは本作公開時63歳。しかし劇中で様々な男性から求められ、そして複数の男性と関係を重ねていきます。
イザベル・ユペールが演じるのはゲーム会社社長のミシェル。地位も経済力もある、自立した女性。そんな彼女がレイプされる衝撃的な場面から映画は始まります。
しかし彼女は決して落ち込むこともなく、また誰かにすがることもなく、クールに現実に対応していきます。
「自立した女性」のアキレス腱
それまでの「自立した女性」「戦うヒロイン」はどこかにアキレス腱を持っていました。
例えば『ターミネーター2』のサラ・コナーは人を殺せない優しさがありました。『エイリアン2』ではリプリーには娘の喪失というトラウマを抱え、植民地の生き残りの少女、ニュートとの疑似親子関係の構築は作品のテーマの一つでもありました。
近年の作品だと年に公開された『ワンダーウーマン』。同作の監督は女性監督のパティ・ジェンキンス。『モンスター』以来14年ぶりの監督作品ということでも話題になりました。
『ワンダーウーマン』では勇気も地位も知性も持ち合わせたダイアナに「愛を知らない」という弱さを負わせています。
ヴァーホーヴェンが描く「本音」
今作『エル ELLE』の監督はポール・ヴァーホーヴェン。彼は今までの作品の中で常に人間の本音の部分を表現してきました。時にそれはグロテスクな映像となってスクリーンに現れることもありますが、その裏には必ず真意や監督自身のメッセージが込められていると感じます。
『インビジブル』では透明人間をモチーフに人間の欲望をそのまま映像化してみたり、『スターシップ・トゥルーパーズ』では逆に全体主義における「建前」を揶揄してみせ、その象徴である軍隊の兵士達をあたかもギャグのように次々と虫たちに殺させていきました。
『エル ELLE』ではミシェルのこの言葉が今作の全てを物語っています。
「恥なんか気にしていたらなにもできない」
『エル ELLE』をそのままレイプ犯を追う被害者の復讐の物語として描くこともできたでしょう。
もちろん作品の中ではミシェルは犯人探しもするのですが、それ以上に彼女の生き方が丁寧に描かれます。
同僚の夫と関係を持ち、その同僚とも寝てしまう。
被害者である、ということは傷を負うと同時に同情を集めることにもなります。
しかし、ミシェルは被害者として祭り上げられることを頑なに拒むのです。
強さ
自分が弱者であることを傘に来て強権的に振る舞う人もいますが、ミシェルはそんな「まやかしの強さ」とは一切無縁。
実際のMetooの運動に関してもフランス人女優のカトリーヌ・ドヌーヴ、ブリジット・バルドーは批判的な立場をとっています。
『エル ELLE』が描いたのはただ何にも縛られずに自由であり続ける女性の強さ。
「恥なんか気にしていたらなにもできない」