『イエスタデイ』は2019年に公開されたダニー・ボイル監督の映画作品。
主演はヒメーシュ・パテルとリリー・ジェームズ。
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「イエスタデイ」の予告編
「イエスタデイ」のスタッフ・キャスト
監督
ダニー・ボイル
脚本
リチャード・カーティス
製作
ティム・ビーヴァン
エリック・フェルナー
バーナード・ベリュー
マシュー・ジェームズ・ウィルキンソン
リチャード・カーティス
ダニー・ボイル
製作総指揮
ニック・エンジェル
リー・ブレイジャー
出演者
ヒメーシュ・パテル
リリー・ジェームズ
ケイト・マッキノン
エド・シーラン
「イエスタデイ」のあらすじ
売れないシンガー・ソングライターのジャックはガールフレンドのに支えられながらもミュージシャンとして芽の出ない日々を過ごしていた。
ある時、世界規模で瞬間的な停電が起きる。ジャックはその時交通事故に遭い意識を失うが、目覚めると誰も「ザ・ビートルズ」のことを知らない世界になっていた。
ジャックはそれを利用して、「ザ・ビートルズ」の曲を歌って成り上がろうとする。
感想・レビュー
ダニー・ボイル監督とリチャード・カーティス脚本という組み合わせ、おまけに題材がビートルズと来れば面白くならないわけがない!ということで、個人的にも期待値の高かった映画『イエスタデイ』。
想像よりもコメディ寄りな作風だったものの、良作と言える作品になっていたのではないかと思います。
主演はヒメーシュ・パテルとリリー・ジェイムズ。リリー・ジェイムズは個人的には『マンマ・ミーア ヒアウィーゴー』以来ですね。好きな俳優さんです。
全体的には映画俳優としてはわりとベテランのスター俳優よりもキャリアの若い俳優を多く起用したイメージです。
映画の宣伝もダニー・ボイルとリチャード・カーティスの名前が全面に出ていて、結構珍しい形のPRだなと思いますね。
今作は世界規模の停電が起こり、その間に世界では「ビートルズ」の存在が消えてしまうという設定。
その間に売れないミュージシャンの主人公、ジャックはバスに衝突する事故に遭いますが、目覚めたら誰もビートルズを知らない世界に変わっていたのです。
ジャック以外ビートルズを誰も覚えていないし、Googleで調べてみてもカブトムシ(beetle)しか出てこない。
ジャックはビートルズの曲を自作曲と偽ってスターに上り詰めていきますが・・・。
ビートルズの楽曲の魅力
映画を観ていて実感するのはビートルズの楽曲のメロディセンス、歌詞のよさですね。
アレンジや演奏は当時の機材の技術的限界もあったかとは思います。
例えばビートルズはライブ活動を完全にストップし、活動の晩年はレコーディングを中心とした活動に切り替わりました。
これは当時のライブではPAシステムが存在しなかったために、観客の歓声によってメンバー同士で音が確認できなかったことがその原因の一つと言われています。
「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」改めて聞くとそのメロディの美しさは正に絶品。
ビートルズはロック・バンドであり、大衆音楽のスターでもありますが、それらの枠を越えて20世紀の音楽史に必ず名を刻む存在でもあります。そのことを改めて実感させられるような楽曲の完成度に驚かされました。
ヘルプ!
さて、瞬く間にスターへ駆け上がっていくジャック。しかし、ビートルズの曲でのしあがっていく日々は彼にとって売れない日々とは別の強いプレッシャーの日々でもありました。
ライブの時に見かける、全てを見通したような客の視線。
テレビ番組のサプライズ・ゲストとして本物のビートルズが現れたらどうするのか?
レコード発売記念のライブではホテルの屋上から演奏します。
これはおそらくビートルズの『ルーフトップコンサート』のオマージュでしょう。ビートルズにとって最後のライブとなったルーフトップコンサート。
ジャックにとっても、この時のコンサートは単独名義では結果的に最後のライブとなります。
一曲目は「ヘルプ」。ポップな曲調とは裏腹に、当時のビートルズ人気の加熱とその熱狂に飲み込まれていくジョン・レノンの悲痛な叫びが歌詞となっています。
その歌詞はそのままジャックの叫びでもありました。
「助けて!」しかしその叫びすらも観客はエンターテインメントとして受け取ってしまう。ジャックはその孤独をさらに深めていくことになります。
注目したいのはこの時のアレンジ。オリジナルバージョンよりも、よりパンキッシュなアレンジとなっています。
恐らく、『ヘルプ』は発表された65年当時はロックンロールとして認識されたのでしょうが、今現在の基準においてはポップスとして認識されるでしょう。
65年と言えば、ロックンロールが誕生してわずか10年余り。
現代の基準で『ヘルプ』という楽曲の意味に沿って改めてアレンジするとなると、これくらいパンキッシュなアレンジになるのでしょう。
終演後のバック・ステージではジャックがずっと気になっていた観客が現れます。
彼らからの贈り物は黄色い潜水艦(イエロー・サブマリン)。
ジャックは彼らがビートルズを知っていて、自分を告発するのではないかと恐れていましたが、実際は逆でした。彼らもまたビートルズを覚えていて、しかし世間からビートルズが消えたためにビートルズに飢えていたのです。
二人はジャックにビートルズを歌い継いでくれていることへの感謝を伝えます。
そして「ビートルズの音楽を正しいことに使って」と言い、一枚のメモを渡すのです。
その場所に住んでいたのはジョン・レノンでした。
ジョン・レノンという「奇跡」
ビートルズにならなかったジョン・レノンは生まれ育った港町のリバプールで船乗りとしての人生を送った平凡な男でした。
しかし、この映画で僕が一番感動したのはこのシーンでもあります。
確かにジョン・レノンはビートルズでなければニューヨークに住むこともなかっただろうし、ダコタハウスでの悲劇に見舞われることもなかったかもしれない。
幸せの秘訣を老年になったジョンはこう言います。
「幸せになる秘訣を知りたいか。愛したい女に愛を伝え、嘘をつかずに生きることだ。」
もしかすると『もう一つの人生』を生きたジョン・レノンのパートナーはオノ・ヨーコではなかったかもしれませんし、ジョン・レノンには真実の愛があれば、もはや音楽は彼の人生の幸せのためには対して重要ではなかったのかもしれません。
ただ、このジョン・レノンからは愛の大切さを歌ったジョンの一面は確かに見えるのですが、反面、政治活動に没頭したジョン・レノンの一面はバッサリ抜け落ちているかのようです。
FBIがジョン・レノンのファイルを作っていたほどの革命家としての顔もジョンには確かにありました。
ジャックはジョンに年齢を訪ねます。
『78歳だよ』とジョンは答えます。
『素晴らしいよ』
ジャックは言います。平凡でもジョンが確かに人生の幸せを掴んで、そしてまだ生きているという奇跡!
観ているこちらも胸がいっぱいになります。
ただ、少し前に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で同じ「映画の奇跡」を観ている分、どうしても感動は薄くはなりますね。そして生き延びる奇跡の瞬間を映画のなかに落とし込んだタランティーノの方が見せ方は上手だったなとは思います。
ジョン・レノンから本当の幸せを学んだジャックは、ゲスト・パフォーマーとして呼ばれたウェンブリーのステージで真実を打ち明けます。
そして本当に自分が愛しているのは誰かということも。
結末が小さな幸せになったことで結果としてこじんまりとした作品になった印象は否めないものの、