「キャロル」は2016年に公開されたドラマ映画です。
原作は1952年に出版されたパトリシア・ハイスミスの小説『The Price of Salt』。
監督はトッド・ヘインズ、主演はケイト・ブランシェットとルーニー・マーラが務めています。
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「キャロル」のスタッフ・キャスト
監督
トッド・ヘインズ
脚本
フィリス・ナジー
原作
パトリシア・ハイスミス『The Price of Salt』
製作
エリザベス・カールセン
スティーヴン・ウーリー
クリスティン・ヴェイコン
製作総指揮
テッサ・ロス
出演者
ケイト・ブランシェット
ルーニー・マーラ
サラ・ポールソン
カイル・チャンドラー
「キャロル」のあらすじ
1950年代初頭のニューヨーク。クリスマスを目前に控えたある日、デパートのクリスマス商品売り場で働く19歳のテレーズは、とある人妻を接客する。彼女の名はキャロル。
四歳の娘を持ち、夫とは離婚調停中の身の彼女。テレーズはキャロルがお店に置き忘れていった手袋を自宅まで送り届ける。
その事をきっかけに二人は親密になっていく。
感想・レビュー
最高に美しく、繊細な映画
これほどまで美しく、繊細な映画には滅多に出会えない。
それが『キャロル』を観終わった後の率直な感想でした。
クリスマスを目前に控えたある日、デパートのクリスマス商品売り場で働くテレーズはとある人妻を接客します。
彼女の名はキャロル。四歳の娘を持ち、夫とは離婚調停中の身でした。
キャロルがお店に置き忘れていった手袋をテレーズは自宅まで送り届けます。
その事をきっかけに二人は親密になっていきます。
恋人のスティーブには感じない感情をテレーズはキャロルに感じていました。
ルーニー・マーラ、ケイト・ブランシェットの圧倒的な演技力
まず、主演女優二人の圧倒的な演技力。全体的にセリフは少なく、その分、演者の細かい芝居が感情や物語を形作っていきます。
テレーズを演じるのはルーニー・マーラ。『ドラゴン・タトゥーの女』の天才ハッカー・リスベット、『her/世界でひとつの彼女』ではAIと恋愛する夫を理解できない妻・キャサリンと幅広い役柄でその才能を発揮しています。
そして、タイトルにもなっているキャロルを演じるのはケイト・ブランシェット。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』では少女から老人までを完璧に演じ分けて見せましたが、今作では母親として、妻として、女として、一人の人物が持っているそれぞれの側面を演じ、言葉に出来ない複雑な感情をもその表情や仕草で表現しています。ルーニー・マーラも本当に演技力が凄かったのですが、ケイト・ブランシェットはもはや圧倒的ですらありました。
ひとつの表情が100の言葉を語っているかのよう。
それを証明するかのようにルーニー・マーラとケイト・ブランシェットは多くの映画賞において女優賞を受賞しています。
1950年代のアメリカにおける同性愛
さて今作『キャロル』はストーリーももちろん素晴らしいのですが、ただ、前提として映画の舞台である1950年代において、同性愛がどのような位置付けにあったのかを知っておかねばなりません。
1950年代のアメリカにおいて、同性愛は治療すべき病気と見なされていました。
『キャロル』の原作は1952年に出版された「The Price of Salt(よろこびの代償)」という小説です。作者のパトリシア・ハイスミスは同性愛者で、同箸にはハイスミス自身の体験が色濃く反映されています。
ハイスミスもテレーズ同様にデパートの販売員をしていました。その理由は「病気」の治療費を稼ぐため。
そんなある日、ハイスミスはキャサリン・センという人妻を接客し、恋に落ちます。
当時「The Price of Salt」はクレア・モーガンという偽名で出版されており、長らくその正体は謎とされていました。
ハイスミスが「The Price of Salt」の作者だと公にしたのは1990年になってから。
そこにアメリカでの同性愛が受け入れられるようになるまでの時間の重さを感じずにはいられせん。
ちなみにアメリカの精神医学会が『精神障害の診断と統計マニュアル』 (DSM-II)から同性愛を除いたのは1973年。同性愛が精神病ではないと認められたのは『キャロル』の時代から20年も後のことでした。
映画『キャロル』は同性愛をスキャンダラスに描くことなく、ただ、男女の恋愛と同様に、その美しさや切なさを丁寧に映し出しています。
と同時に作品全体を覆う独特の緊張感や背徳感、儚さ・・・それこそが50年代の同性愛者が感じていた空気そのものでしょう。
キャロルのモデルとなったキャサリン・センは1951年に自殺しています。
当時のアメリカは保守的な理想像を目指した裏で多様性やマイノリティを排除する動きを見せていました。
映画のなかでも「非米活動委員会は承知なのか?」というセリフがありますが、ここでいう非米活動委員会とは共産主義者を追放する「赤狩り」を先導していた機関のことです。
今ほど目覚めた時はないわ!
自身の同性愛行為を理由に親権を奪われようとしているキャロルは、春まで娘と会えないようになり、テレーズを誘ってあてのない旅に出ます。
その事を知ったスティーブはテレーズと口論になります。
なぜ自分との旅行をキャンセルしてまで知り合ったばかりの人妻と出かけるのか?
そうスティーブは詰め寄ります。スティーブはテレーズを理解しようとせず、「すべて君のためだ」といい、自分の行動を正当化しようとするところがありました。
「君は夢を見ているのと同じ」スティーブはテレーズに言い放ちます。
「今ほど目覚めた時はないわ!」