【感想 レビュー】「JOKER」ひたすら圧倒される作品

『JOKER』とは2019年に公開されたホアキン・フェニックス主演のスーパーヒーロー映画。バットマンの敵であるジョーカーがどのようにして誕生したのかが明かされます。第76回ヴェネツィア国際映画祭でスーパーヒーロー映画として初めて金獅子賞を受賞しました。

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「JOKER」のスタッフ・キャスト

監督
トッド・フィリップス

脚本
トッド・フィリップス
スコット・シルヴァー

製作
トッド・フィリップス
ブラッドリー・クーパー
エマ・ティリンガー・コスコフ

出演者
ホアキン・フェニックス
ロバート・デ・ニーロ
ザジー・ビーツ
フランセス・コンロイ

「JOKER」のあらすじ

アーサー・フレックはコメディアンを目指す中年男性。
病気の母を抱え、孤独で貧しい日々を送っている。

彼は脳の損傷により、発作的に笑い出すという病気を抱えながらピエロの扮装をしてあらゆる場所に派遣される仕事をしていた。
しかし、ある時とある店のセールの看板を持って仕事をしていたときに街の不良達に襲われ、看板は壊され、自身も酷い暴行を受ける。

アーサーは同僚から護身の一つとして銃を渡されるが、小児病棟で 子供達の慰問の仕事をしていたときに携帯していた拳銃を落としてしまい、雇用主から「なぜ小児病棟に拳銃を持ち込んだのか」と詰問され、雇用先をクビになってしまう。

失意のあまりピエロメイクのままで電車に乗るアーサー。すると向かいの若い三人組の男が女性に絡んでいるのが目に入る。

苛立ちながらも傍観を決め込むアーサーだったが、そんなときに笑いの発作が出てしまう。
それをきっかけに男達のからかいの対象はアーサーに切り替わる。
やがてからかいは暴行へと変わり、耐えきれなくなったアーサーは一人を射殺。そして続けて残りの二人も射殺する。

この事件を機に、アーサーの中の狂気が徐々に芽生えてゆく。



感想・レビュー

『ダークナイト』をも凌ぐ狂気

ダークナイト』のジョーカーが、過去を持たず、バットマンの対極の存在として描かれるのに対して、今作『JOKER』のジョーカーはあくまでも生身の人間であり、それゆえの哀しみや欲求、何よりも身に降りかかる苦難や不幸が彼をジョーカーへと変貌させていきます。

主演はホアキン・フェニックス。個人的にそれまではホアキン・フェニックスという役者に狂気は感じたことはありませんでしたし、ウディ・アレン監督の『教授のおかしな妄想殺人』に出てくるホアキン・フェニックスは若干のメタボ体型だったのもあって、ヒース・レジャーが演じた伝説的なジョーカーには及ばないだろうなと思っていました。

果たして『JOKER』は『ダークナイト』をも凌ぐ狂気への吸引力を持つ作品に仕上がっていました。

ホアキン・フェニックスは本作のために24㎏もの減量を果たし、痩せ細った肉体をスクリーンに晒しています。

ホアキン・フェニックス演じるアーサー・フレックはコメディアンを目指す中年男性。
彼は脳の損傷により、発作的に笑い出すという病気を抱えながらピエロの扮装をしてあらゆる場所に派遣される仕事をしています。
しかし、ある時とある店のセールの看板を持って仕事をしていたときに街の不良達に襲われ、看板は壊され、自身も酷い暴行を受けます。

アーサーの生活は病気の母を抱え、孤独で貧しい日々でした。

アーサーのままならない日常に同情や共感を感じる人は少なくないでしょう。

アーサーの不幸

アーサーにはさらにいくつもの不幸が襲いかかります。

・職を解雇されたこと

・母の手紙から自分が街の富豪トーマス・ウェインと母の間の不義の子供なのを知ったこと

・しかし、母親はかつて妄想性の病気を患っており、精神病院への入所歴があったこと。

・そこには自分が母とは血の繋がりのない養子であること、そして母はかつて幼い自分を虐待していたこと

・憧れのコメディアン、マリー・フランクリンが自分のステージをテレビでけなしたこと。

・父だと信じたトーマス・ウェインに拒絶されたこと。

ジョーカーを否定できるか

ここまでの不幸の一方で、アーサーは自身に電車内で暴行した三人の男を突発的に射殺しています。
図らずもその3人がトーマス・ウェインの会社の従業員であったことから、「ピエロの男」(アーサーは犯行時ピエロの扮装をしていた)は格差の拡大したゴッサム・シティにおいて、まるで世界恐慌時代のボニーとクライドのように民衆の中で支持される存在になっていきました。
素顔の自分が誰からも拒絶され、無視される一方で、ピエロの自分は確かに支持を受けている。
この落差のなかで、アーサーに同情や共感をしていた私たちの中にはある想いが生まれます。

「果たして、自分がアーサーであったなら、ジョーカーとして生きることを否定できるだろうか?」



『JOKER』は公開時にアメリカで非常に警戒された映画のひとつとなりました。
それはかつての『時計じかけのオレンジ』や『ファイト・クラブ』、そして『ダークナイト』のように犯罪を誘発する可能性の高い映画だと目されたからです。

確かにこの映画は圧倒的に重く、暗く、深く心を揺さぶる作品でもあります。

一方でなぜ『悪』が生まれるのかを丁寧に描いて見せた作品とも言えます。

『何が善か、何が悪かは主観で決まる』

クライマックスでジョーカーはそう言います。

自分を認めて生きていくには狂気にまみれて悪として生きるしかない。

そして、大衆はピエロの仮面をかぶり、自分を熱狂的に支持している。

なぜナチス・ドイツが成立したのか。それは大衆が熱狂的に支持したからです。
誰かをリーダーにする時、それは本人の資質もあるでしょうが、大衆が「リーダーである彼」を作り上げるのです。

同じようにジョーカーの成立には大衆が不可欠でした。
彼らは決して素顔を見せず、ピエロの仮面に隠れてジョーカーを支持し、自らも犯罪に荷担していきます。

監督のトッド・フィリップスは本作の設定を『70年代』としたそうですが、仮面をネットに置き換えれば、現代にも通じる話だと思います。

『JOKER』、圧倒される映画です。




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