【感想 レビュー】「波止場」エリア・カザンが託した理想と償い

ジョニー率いる一味に殴られ、半殺しの目に遇うテリー。

ここではエリア・カザンが本作に込めたもう一つの想いを感じ取れます。

それは『裏切り者が背負うべき罪と罰』。

僕はテリーにはカザンの理想でもあると同時に、カザンそのものをも反映させていると考えています。

裏切り者に本来与えられるべき罰をカザンは自らの代わりにテリーに与えたのです。

テリーはカザンの理想の強さを持つ人物でもあり、一方では裏切りという事実だけを見ればカザンそのものとも見れました。

「私も当時は非難の的だった」

カザンは『波止場』の撮影を振り返ってそう言います。

友人らを売った「裏切り」には当時から批判の声が大きかったそうです。

実際に撮影中、カザンには常に護衛がつき、それでも一度襲われたことがあるとインタビューでカザンは述べています。

『波止場』はカザンが自らの裏切り行為を正当化しようとした作品と言われることがあります。

確かに、カザンは自らの行為について70年代には

「共産主義者と呼ばれるくらいなら裏切り者と呼ばれる方がまし」

「同じ事態が起きれば何度でも同じことをする」

と述べています。

しかし、カザンは一度は公聴会での証言を拒んだという事実があります。

年を取れば、年々自らの人生を肯定したくなるという気持ちもわかります。

以下、私見ではありますが、最後に『波止場』に込められたカザンの想いを考察してみたいと思います。

『波止場』に込められているもの

『波止場』に込められているのは、カザンの権力に屈することなく、正義を貫きたかったという『理想』であり、また仲間を裏切った自分への『罰』を映画を通して与え、赦しを乞うているようにも見えます。

その二つの側面を一人の男に反映させることで、マーロン・ブランド演じるテリーのキャラクターは複雑で繊細なものとなりました。

マーロン・ブランドは今作でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、『波止場』も作品賞に輝いています。

今や古典の名作となった今作はエリア・カザンの理想と償いが込められているように感じます。

そして、カザン自身の名誉回復はこの映画からさらに40年以上経ってからなされることとなるのです。

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