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【感想 レビュー】「波止場」エリア・カザンが託した理想と償い

「波止場」は1954年に公開されたエリア・カザン監督の映画。

主演はマーロン・ブランド。

1954年のアカデミー賞では作品賞をはじめ、監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞など8部門を受賞した古典の名作映画です。

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「波止場」のスタッフ・キャスト

監督
エリア・カザン

脚本
バッド・シュールバーグ

製作
サム・スピーゲル

音楽
レナード・バーンスタイン

撮影
ボリス・カウフマン

編集
ジーン・ミルフォード

出演者
マーロン・ブランド
エヴァ・マリー・セイント
カール・マルデン
ロッド・スタイガー

「波止場」のあらすじ

波止場で働く元プロボクサーのテリー。

テリーの働く波止場はジョニー率いるマフィアの取り仕切るシマの一つ。

テリーも彼の兄のチャーリーもマフィア組織の構成員の一人。

ある時、テリーはとある建物の屋上に友人のジョーイを呼び出す。ジョーイにはマフィアに楯突いたことから制裁が加えられる予定であり、テリーは彼を屋上に誘い出す役割を負わされていた。屋上に現れたジョーイはチャーリーによって突き落とされ、転落死させられる。

制裁といってもジョーイをただ殴るだけだろうと思っていたテリーの心には大きな罪悪感が生まれるが、この波止場で生きていくには波止場を牛耳るジョニーに逆らうわけにはいかない。

しかしジョーイの妹、イディとの再会による改心、告発者を事故に見せかけて殺していく組織のやり方に憤りを覚えたテリーはジョニーを裏切り、法廷で勇気をもってジョニーの犯罪を告発してゆく。

感想・レビュー

エリア・カザンの代表作とも言える作品です。

実在した港湾労働者のトニー・マイクの逸話をモチーフにし、港湾労働を支配するマフィアへ反抗した若者を描いています。

ちなみに今作に登場するエキストラは本当の港湾労働者たち。

カザン本人は否定したそうですが、『波止場』はカザン自身を反映した映画だとも言われています。

赤狩りとエリア・カザン

それは戦後すぐのアメリカを席巻した赤狩りの嵐。

エリア・カザンは元共産党員ということから赤狩りの時期(1952年)に下院非米活動委員会に嫌疑をかけられました。

カザンは司法取引で共産主義の疑いのある者の11人のリストを渡し、ハリウッドを追放されることなく、映画監督を続けることができています。

赤狩りについては「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」で描かれていますが、カザンとは逆に自分を貫いた脚本家、ダルトン・トランボのその後は悲惨なものでした。

刑に服し、罪(もちろん共産主義は罪ではありません)を償っても仕事はない、庭は見知らぬ誰かに荒らされ、家族の安全すら保証できない、まるで世間の全てから家族が無視され、攻撃されているかのよう。

トランボは偽名で脚本を量産し続けて口糊を凌ぎますが、映画監督はそうはいきません。

「監督は毎日現場に来ねば撮影は進まない、映画監督は偽名でやるわけにはいかず、ただ職を失うだけ」

『トランボ』の監督、ジェイ・ローチはこう述べています。

実際に赤狩りの中でも信念を貫けた映画監督はエイブラハム・ポロンスキー、ハーバート・ビーバーマンの二人だけだと言われています。

赤狩りはスターリンの死もあり、50年代半ばには沈静化します。そして、60年代にはトランボなどの赤狩りの犠牲者の名誉回復がなされることになります。

その影でカザンのような『密告者』にはそのレッテルが汚名として重くのし掛かるようになります。

事実、その後半世紀近く経ってもカザンの汚名は残ったままでした。

『波止場』の製作陣ではカザンの他に脚本を務めたバッド・シュールバーグも赤狩りのなかで仲間を売った一人でした。



『波止場』が見せる償いの物語

カザンは『波止場』について「罪悪感に駆られ、償いを求める普通の男のドラマだ」と述べています。

主人公はマーロン・ブランド演じる港湾労働者のテリー。港湾労働者はブルーカラーの象徴として『宇宙戦争』でも主人公の職業として描かれています。

テリーの働く波止場はジョニー率いるマフィアの取り仕切るシマの一つ。

テリーも彼の兄のチャーリーもマフィア組織の構成員の一人です。

ある時、テリーはとある建物の屋上に友人のジョーイを呼び出します。ジョーイにはマフィアに楯突いたことから制裁が加えられる予定であり、テリーは彼を屋上に誘い出す役割を負わされていました。

屋上に現れたジョーイはテリーの兄、チャーリーによって突き落とされ、転落死させられます。

制裁といってもジョーイをただ殴るだけだろうと思っていたテリーの心には大きな罪悪感が生まれます。

しかし、この波止場で生きていくには波止場を牛耳るジョニーに逆らうわけにはいかない。

カザンがテリーに託した「理想」

ここまでは実際のカザンの行動と一致します。しかし、カザンはそのために共産主義の疑いのある者の11人のリストを渡しますが、映画の中ではしかしジョーイの妹、イディとの再会による改心、告発者を事故に見せかけて殺していく組織のやり方に憤りを覚えたテリーはジョニーを裏切り、テリーは勇気をもってジョニーの犯罪を告発するのです。そこにはカザンが自分のなし得なかった「理想」をテリーに託しているようにも見えます。

全てを失うことを覚悟してでも己の意思を貫けたならー。

そんな想いをカザンはテリーに投影しているように思います。

映画評論家の町山智浩氏は著書『最前線の映画を読む』の中で、テリーを「裏切りに裏切りを重ねた」と評しています。テリーの行動のみに着目すれば、確かに彼は二回裏切ります。

一度目はマフィアに立ち向かった友人のジョーイを、そして二回目はそのマフィアそのものを。

しかし、二回目の裏切りは彼の冷酷さから来るものではなく、むしろ改心し正義を求めればこそ!

最初にいたレールに戻るには、今走っているレールを脱線しなければなりません。

映画史に輝く名場面

その覚悟の重さを示すのが兄のチャーリーとのタクシーでの会話の場面です。

法廷でジョニーを告発するのか、そう問うチャーリーにテリーは「わからない」と答えます。

テリーは今まで不満がありながらも兄の言葉に従ってきました。

「あそこで兄貴が八百長を指示しなければ、俺はチャンピオンになってた!」

「今より少しはいい顔ができたんだ!」

それは今までテリーが誰にも一度も言わなかった本音です。

この会話でテリーは自分の本当の気持ちを声に出す勇気を持ち始めていることがわかります。

兄はついにテリーに銃を突き付けます。テリーはもはや兄がかつての兄でなくなっていることを悟ります。

マーロン・ブランドはここで見事な演技を見せます。銃を突きつけられたならば、通常ならば取り乱したり、怯えきった芝居をするところですが、ブランドはそのどちらでもない演技を見せたのです。

「チャーリー」そう優しく言って銃を制すテリーに、兄もまた弟にはすでに確固たる決意があること、そして自分を待つ死の運命を受け入れます。

「仲間にはお前とは会えなかったと言っておく」

そう言ってテリーと別れるチャーリー。それは兄が弟に見せた最後の優しさでした。

そしてチャーリーの予想通り、彼はジョニーの組織に殺されます。

兄の変わり果てた姿を見つけたテリーは 兄から渡された銃を手に報復へ向かいますが、神父から『銃は卑怯者の武器だ。本当の武器は真実だ』と暴力ではなく、法廷での証言を促されます。



裏切り者が背負うべき罪と罰

果たして法廷でジョニーの犯罪とジョーイの死の真相を明かしたテリー。彼を待っていたのは裏切り者に対する制裁でした。