【ネタバレ レビュー】「或る夜の出来事」

『或る夜の出来事』は1934年に公開されたフランク・キャプラ監督のラブコメ映画です。
主演をクラーク・ゲーブル、クローデット・コルベールが務めています。

アカデミー史上はじめて主要五部門を全制覇した作品。
同様の快挙を成し遂げた作品は本作に続いて『カッコーの巣の上で』、『羊たちの沈黙』と現在に至るまで合わせて3作品のみとなります。

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「或る夜の出来事」のスタッフ・キャスト

監督
フランク・キャプラ

脚本
ロバート・リスキン

原作
サミュエル・ホプキンス

製作
フランク・キャプラ
ハリー・コーン

出演者
クラーク・ゲーブル
クローデット・コルベール

「或る夜の出来事」のあらすじ

大富豪の令嬢であるエリーは飛行士の婚約者、ウェストリーとの結婚を父親に認めてもらえず、父と共に搭乗していた船から一人海へと逃げ出します。
エリーは追っ手の目をかいくぐり、ウェストリーのいるニューヨーク行きのバスに乗り込みます。
そこに乗り合わせたのが新聞記者のピーター。
ピーターの座る席にはバスに指定席があることも知らないエリーが座っていました。
二人は座席を巡って一悶着。互いの第一印象は最悪でしたが、ニューヨークへの道中、様々なアクシデントをつうじて二人は惹かれ合っていきます。

感想・レビュー

スミス都へ行く』と『群衆』はフランク・キャプラの中でもヒューマニズムはありつつも政治など社会的な問題を取り上げた物語でもありました。

『或る夜の出来事』はそういった意味では純粋なコメディ映画。
一般的にはスクリューボールコメディと呼ばれるジャンルの作品です。

スクリューボールコメディ

スクリューボールコメディとは、登場人物が突飛な行動をし、予想もつかない軽快なテンポで繰り広げられるコメディ映画のこと。
大恐慌時代には現実の苦しさを忘れさせてくれるような、軽快なコメディが求められていました。

大富豪の令嬢であるエリーは飛行士の婚約者、ウェストリーとの結婚を父親に認めてもらえず、父と共に搭乗していた船から一人海へと逃げ出します。
エリーは追っ手の目をかいくぐり、ウェストリーのいるニューヨーク行きのバスに乗り込みます。
そこに乗り合わせたのが新聞記者のピーター。
ピーターの座る席にはバスに指定席があることも知らないエリーが座っていました。
二人は座席を巡って一悶着。互いの第一印象は最悪でしたが、ニューヨークへの道中、様々なアクシデントを通じて二人は惹かれ合っていきます。

「ローマの休日」

『或る夜の出来事』は今でいうラブコメであり、今作を観ると後の時代の名作『ローマの休日』も大きな影響を受けていることがわかります。

映画のヒロインである上流階級の娘が自身のままならない身の上を嘆いて、一般市民の中に逃げ込むという始まり、そして然知り合った男性とのロマンス。『ローマの休日』で、グレゴリー・ベック演じるジョーも『或る夜の出来事』のピーター同様新聞記者であり、またスクープを得るために逃げ出してきたヒロインと共に行動するはずだったが、いつしか本当に愛情が芽生えてしまうという展開も共通しています。

『ローマの休日』との違いはそのエンディング。

『或る夜の出来事』はハッピーエンドで終わりますが、戦後まもなくの時期に製作された『ローマの休日』ではオードリー・ヘプバーン演じるアン王女は国家間の友好を深め、国際平和に貢献するという自らの使命に気付き、ジョーとの個人的な恋愛を諦めるという悲恋とも言えるエンディングを迎えます。

そこには戦時中に従軍パイロットとして戦争の悲惨さをその目で感じた監督のウィリアム・ワイラー、ナチス占領下のオランダで暮らしていたオードリー・ヘプバーンの平和への想いが反映されているように感じます。

実際に『ローマの休日』でウィリアム・ワイラーが最も力をいれたのは「嘆きの壁」の場面。戦争で多くの悲劇が生まれたことをワイラーは名作ラブコメ映画にもきちんと取り入れています。

ヘイズ・コード

どちらもラブコメであるにも関わらず、『或る夜の出来事』にはキスシーンすらありません。
そうした理由には、この時代のアメリカの映画界を縛っていたヘイズ・コードがあります。
ヘイズ・コードは映画業界が自主的に行った表現規制のひとつですが、男女が同じベッドに寝る、キスなどの性表現、また暴力描写などが規制対象になっています。

しかし、『或る夜の出来事』に関してはこのヘイズ・コードがあってこそ、逆に印象に残るシーンが多く生まれています。

その一つはエリーが脚を見せてヒッチハイクするシーン。

また「ジェリコの壁」と呼ばれるシーツで隔てられたピーターのベッドとエリーのベッド。これは前述のとおり、男女が同じベッドに寝ることがヘイズ・コードに抵触するためにとられた演出ですが、かえってピーターの誠実さや互いに素直になれず心の中を打ち上けられない、逆に言うと相手の本心が見えないことのメタファーにもなっています。

「恋人たちの予感」

また今作で描かれた『第一印象が最悪な二人の出会い』というパターンも後のラブコメで幾度となく描かれた定型となっており、メグ・ライアン主演の『恋人たちの予感』もこのパターンから物語がはじまります。
二人で車にのってニューヨークへ向かうという展開も同じですね。

ローマの休日と違い、こちらはハッピーエンドで終わりますが、『恋人たちの予感』では女性の目線から作られたコメディであることは特筆しておくべきポイントでしょう。

『恋人たちの予感』の脚本を手掛けたのは女性脚本家のノーラ・エフロン。
メグ・ライアン演じるサリーがデリカテッセンで偽のオーガニズムを演じるシーンは有名ですね。このシーンには男性が気づいていない、女性の秘密が象徴的に描かれています。

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