「メイド・イン・USA」ゴダールとアンナ・カリーナ

『メイド・イン・USA』は1966年に公開されたジャン=リュック・ゴダール監督、アンナ・カリーナ主演のフランス映画です。

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「メイド・イン・USA」のスタッフ・キャスト

監督
ジャン=リュック・ゴダール

脚本
ジャン=リュック・ゴダール

原作
リチャード・スターク

製作総指揮
ジョルジュ・ド・ボールガール

出演者
アンナ・カリーナ
ジャン=ピエール・レオ
ラズロ・サボ
マリアンヌ・フェイスフル
イヴ・アフォンソ

「メイド・イン・USA」のあらすじ

感想・レビュー

『勝手にしやがれ』で長編デビューしたゴダールの作目の映画が『メイド・イン・USA』。

『勝手にしやがれ』では全編にわたるロケ撮影やジャンプカットなどの編集・演出が注目を集めたゴダールですが、今作ではその色彩センスもズバ抜けていることを改めて示しています。

ゴタールの色彩

ゴタールの映画は即興的だと言われます。確かに台詞や演出には即興性を感じますが、カットの一つ一つは非常に計算されたもの。

それはどのシーンを切り取って写真にしても絵になるほど、緻密に構成されています。

そして、アンナ・カリーナのファッションの素晴らしさ!

『メイド・イン・USA』の色彩の中心にいるのは、間違いなくアンナ・カリーナでしょう。

前作『気狂いピエロ』ではジャン=ポール・ベルモンド演じるフェルディナンを破滅へ導く悪女として描かれたアンナ・カリーナ。

今作ではもちろん目的のために犯罪に手を染める場面はあるものの、それ自体に深い意味はなく、単純にゴダールの嗜好でしょう。

それ以上にアンナ・カリーナはゴダールの価値観の対極に位置し、ゴダールの価値観を相対化する役割を今作では負っています。

それを端的に表したものがバーの客とアンナ・カリーナ演じるポーラの会話。

「文章は無駄な言葉の集積だから」そういう客に対してアンナ・カリーナ演じるポーラは「文章とは完全な意味を作り出す言葉の集積」と返します。

言うまでもなくバーの客にはゴダール自身が投影されており、それに反論するカリーナはこの時期のゴダールとアンナ・カリーナそのままの関係性と言えなくもないでしょう。

ゴダールとアンナ・カリーナはに結婚しますが、1965年に離婚。ちょうどその時期に撮影されていたのが『気狂いピエロ』でした。

前述のように一見純なようでいて、男を裏切って破滅へ導く悪女として描かれるアンナ・カリーナの描かれ方はゴダールがアンナに見せる当時の視線をそのまま反映させたものでしょう。

2週間で作られた『メイド・イン・USA』

『勝手にしやがれ』以来の付き合いとなるジョルジュ・ド・ポールがゴダールに3週間以内に映画の撮影を始めてくれないかと電話したことから本作の製作は始まりました。

ジョルジュは彼の全財産を投じたアンナ・カリーナ主演の『修道女』が公開禁止になったので、月末の支払いに困るようになったため、ゴダールになんでもいいから早く映画を作ってくれと頼んだそうです。そうすれば映画制作としてジョルジュは新たに資金を借りることができるから。

「俺のために大急ぎで映画を一本作ってくれないか。それが俺が難局を塗り抜ける唯一の方法なんだ。」

そうジョルジュから言われたとゴダールは語っています。

ゴダールは一冊の探偵小冊を選び、『メイド・イン・USA』を制作。この時選んだのはアメリカの作家リチャード・スタークの『悪党パーカー/死者の遺産』。

しかし、撮影が始まると映画はスタークの原作とはもはや別物になってしまったために、プロデューサーのジョルジュはゴダールに内緒で原作者のスタークと接触し、映画化権の契約をキャンセル。

一方でそんなことは知らないゴダールはイギリスの映画雑誌『サイト・アンド・サウンド』にアメリカの作家、リチャード・スタークのハードボイルド小説を映画化していると話してしまいます。

スタークはゴダールに対して著作権侵害の裁判を起こし、結果として『メイド・イン・USA』の北米大陸における配給権を買ったのだそう。

ちなみに初期のシナリオ案ではポーラはティフスの姪である日本女性のセコト(公開版でのミゾグチだと思われる)と出会ってから、劇中でセコトって何のこと?というやり取りが絶えず繰り返されるとあり、ここでも『勝手にしやがれ』の台詞との繋がりを感じさせます。

最も、即興演出を好んだゴダールを思えば、この初期のシナリオそのものが、ひとまずプロデューサーを安心させるための仮の素材でしかなかった可能性も否定できませんが。

『メイド・イン・USA』というタイトル

前述のように、アメリカの小説をもとにして描かれる今作の世界はゴダールの思い描くアメリカ。

まさに『メイド・イン・USA』というタイトルそのままです。

「思い出まくら」で知られるシンガーソングライターの小坂恭子演じるドリス・ミゾグチ。

彼女の姓はゴダールの崇拝する映画監督溝口健二からの拝借ではあるものの、名のドリスはアメリカの女優、ドリス・デイからの引用でしょう。

主人公のポーラ・ネルソンもドン・シーゲルが監督した映画『殺し屋ネルソン』から。
またドン・シーゲルの名前も今作の登場人物ドナルド・シーゲルの元になっています。

本作の舞台であるアトランティック・シティはオーソン・ウェルズの『市民ケーン』の舞台となった街の名前でもあります。

ゴダール自身の評価

ゴダール自身は『メイド・イン・USA』を失敗作だと評価していて、それは『勝手にしやがれ』と同じくアメリカの犯罪映画を摸倣し、その上『メイド・イン・USA』はただ模倣したにすぎない退屈な作品だということ。

それは今作がもはやストーリーを追うには難解な作品となってしまっていることからも明らかです。ゴダールは地に足の着いた作品として撮影したかったとのことですが、ストーリーの面ではもはやそれは破綻しているといってもいいでしょう。

このように純粋な映画製作の欲求からではなく、ビジネス的な理由で急ごしらえで作られることになった『メイド・イン・USA』。主演のアンナ・カリーナの抜擢に対してもそれは当てはまります。

ゴダール自身は『メイドインU.S.A.』にアンナ・カリーナを抜擢したことについて『習慣以外の何者でもない』と語っています。

多くの批評家の意見として、かつてゴダールが監督したアンナ・カリーナ主演の『小さな兵隊が』、『修道女』同様公開禁止になったこととも重なり、その贖罪の意味もあって今作はアンナ・カリーナで撮影されることになったのだろうといわれています。

その代わりに『メイド・イン・USA』は政治的なメッセージが随所に溢れる映画となりました。それはこれから先に訪れるゴダールの商業主義との決別の時代を予見させるものと言えるかもしれません。

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