【感想 レビュー】「ジョイ」劇場未公開作から見る映画ビジネス

「ジョイ」は2015年に公開された伝記映画。アメリカの発明家ジョイ・マンガーノをテーマにしています。

主演はジェニファー・ローレンス。日本では劇場公開されずに、ビデオスルーとなりました。

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「ジョイ」のスタッフ・キャスト

監督
デヴィッド・O・ラッセル

脚本
デヴィッド・O・ラッセル

製作総指揮
マシュー・バドマン
ジョン・フォックス
ジョイ・マンガーノ
メアリー・マクラグレン
アニー・マモロ
ジョージ・パーラ
イーサン・スミス

出演者
ジェニファー・ローレンス
ロバート・デ・ニーロ
エドガー・ラミレス
ダイアン・ラッド
ヴァージニア・マドセン
イザベラ・ロッセリーニ
ブラッドリー・クーパー

「ジョイ」のあらすじ

三人の子供を抱えるシングルマザーであるジョイは家庭の不和や自身のままならない人生に頭を悩ませる日々。

そんな中、ふとしたことがきっかけで「手で絞る必要のないモップ」を考えつく。

ジョイは借金を重ね、新商品のミラクルモップを開発。サクラさえつかい、ミラクルモップの魅力をPRするも、全く売れない日々が続く。

そこで、元夫の人脈を使い、テレビ通販のQVCで商品を紹介してもらおうとするが、プロであるはずの出演者は商品の使い方をわかっておらず、ここでも散々な結果に。
ジョイは番組の放送に備えて商品生産に投資していたが、その回収の見込みも立たなくなってしまう。

起死回生の一策として、ジョイは自らがQVCに出演し、自分自身で商品のPRを行う。

放送は大成功。しかしジョイにはビジネスを成功させるための試練が次から次に襲い掛かる。

感想・レビュー

実在の発明家、ジョイ・マンガーノをテーマにした今作。
シングルマザーで理想とは程遠い人生を歩んでいた女性が計り知れない名声と成功を収めるという点では大ヒットしたジュリア・ロバーツ主演の 『エリン・ブロコビッチ』を思い出させます。

『エリン・ブロコビッチ』では、無理やり法律事務所に押し掛け、公害被害を出していた世界的な大企業、社から当時の全米史上最高額とも言われる和解金額を勝ち取った実在の女性、エリン・ブロコビッチを当時人気絶頂だったジュリア・ロバーツが演じています。
この作品でのジュリア・ロバーツの演技は高い評価を得て、アカデミー賞やゴールデン・グローブの主演女優賞をはじめとして多くの賞を獲得。

今作の『ジョイ』も人気女優のジェニファー・ローレンスを主役に置き、父親役には名優のロバート・デ・ニーロを配しています。

『エリン・ブロコビッチ』同様、三人の子供を抱えるシングルマザーであるジョイは家庭の不和や自身のままならない人生に頭を悩ませる日々。

そんな中、ふとしたことがきっかけで「手で絞る必要のないモップ」を考えつきます。
ジョイは周囲の手助けを受けながら何とかしてモップを商品化していくものの、様々な困難が彼女を待ち受けていたのでしたー。

伝記映画には選ぶテーマや脚本によってはどうしても印象が地味なものになってしまう可能性があります。
逆にいうと、『エリン・ブロコビッチ』のように「全米史上最高額 」という分かりやすく、スケールの大きいゴールがある場合、モハメド・アリを描いた『アリ』のように見せ場となるスポーツが必然的に生まれる場合、それら以外は地味になってしまうのかもしれません。

『ジョイ』もやはり地味な印象は拭えません。ただ、決して悪い作品でもないとは思います。

ビジネスを始めることの困難を描いてはいますが、例えサラリーマンだとしても新しい企画を実現に移すとき、ジョイのような憂き目に遇うことも決して珍しいことではないと思います。
成功を確信してそれなりのコストを割いても反応が全く得られない。

ジョイの売る新型モップ「ミラクルモップ」も同じでした。

ジョイはサクラさえつかい、ミラクルモップの魅力をPRしますが全く売れない日々が続きます。
そこで、テレビ通販のQVCで商品を紹介してもらおうとしますが、プロであるはずの出演者は商品の使い方をわかっておらず、ここでも散々な結果に。
ジョイは番組の放送に備えて商品生産に投資していましたが、その回収の見込みも立たなくなってしまいます。

起死回生の一策として、ジョイは自らがQVCに出演し、自分自身で商品のPRを行います。

前述のように『ジョイ』ビジネスで成功することの困難さを描いています。もちろんアメリカン・ドリームをつかんだ女性のサクセス・ストーリーとも言えるのですが、成功する箇所はナレーションで済まされ、ジョイに降りかかる数多の困難と、彼女の決して諦めない姿勢が映画のほとんどを占めます。

後半になり、ジョイがどんどんタフになっていくのが、彼女のファッションの変化でも表現されているのはポイントの一つ。淡い色の薄汚れた服だったジョイは後半ではブラックのレザージャケットを纏っています。

『ジョイ』はシリアスな面も多い作品ですが、ロバート・デ・ニーロが上手くその空気を中和させるようなコミカルさを漂わせています。

実は今作は日本では劇場公開されていない映画です。

ジェニファー・ローレンスは今が旬の女優ですし、実際に今作の演技でアカデミー賞にもノミネートされています。

同じく人気俳優のブラッドリー・クーバーや多くの実績を持つ名優ロバート・デ・ニーロというキャストを揃えながら劇場公開を見送られているという事実もまた興味深く感じます。
もちろん、映画は俳優のネームバリューだけで成功するものではないでしょう。

しかし、の映画『フェンス』に至ってはアカデミー賞作品賞にノミネートされながら、日本では劇場未公開となっています。ちなみに『フェンス』の主演はデンゼル・ワシントンでアカデミー賞主要5部門のひとつ、作品賞など4部門にノミネート、また助演女優賞の受賞も果たしています。

その裏には映画の持つビジネスとしての側面があります。

もちろん「総合芸術」とよばれるものではあるのですが、同時に映画は興行収入を期待される「商品」でもあるのです。安易とも思えるスーパーヒーロー映画の隆盛にマーティン・スコセッシなどから批判の声が上がったことがニュースにもなりましたが、そのような大作映画がスクリーンを占めるのは確かに考えさせられる問題でもあります。確かに利益の見込めそうにない作品は敬遠してしまうのもわかります。しかし映画は芸術でもあります。敬遠してしまう作品のなかに秀作、良作が転がっていることも珍しくありません。

『ジョイ』はビジネスを描いた作品ですが、この作品そのものもまた映画ビジネスということを強く意識させる作品だなと思います。

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