『ターミネーター:ニュー・フェイト』で28年ぶりにスクリーンに登場したサラ・コナー。
『エイリアン』のエレン・リプリーと並び、今やバトルヒロインの偉大なるレジェンドとも言えるキャラクターになっています。
今回はサラ・コナーを中心に『ターミネーター』シリーズを見てみたいと思います。
サラ・コナー初登場『ターミネーター』
サラ・コナーが初めてスクリーンに姿を見せたのが1984年の『ターミネーター』。
当初はどこにでもいる一般の大学生でした。スクーターでバイト先に通い、ルームメイトと一緒に暮らす、何の変哲もない女性です。
ちなみにサラ・コナ―がウェイトレスとして働いていたレストランの名前はボブのビッグバンズ。この名前は、キャメロンの最初の妻シャロンが働いていたレストラン「ボブのビッグボーイ」を基に作られています。
さて、そんなある日、サラ・コナーと名のつく人だけが次々に殺されていく連続殺人事件が発生。時を同じくしてサラの身の回りにも怪しい人影が忍び寄ります。
この『ターミネーター』はサラ・コナーの成長の物語です。
怪しい人影の正体はカイル・リース。彼は未来からサラを守るために来た兵士で、同名のサラ・コナーを殺害し続けているのは、同じく未来から来た殺人機械、ターミネーターなのでした。
このターミネーターからの逃亡と戦いの中でサラは降りかかる運命と自らの使命に目覚めていきます。
それは少女から戦士へと変わっていくことに近いとも言えるでしょう。
彼女はターミネーターとの戦いの中で、その人間関係のほとんどを失うことになります。
ルームメイト、祖母、おそらく父母もターミネーターに殺害されているでしょう。そしてカイル・リースもターミネーターとの戦いの中で命を落とします。
しかし、彼女はターミネーターとの戦いの日々でそれでも未来へ進む強さを手に入れます。
サラ・コナーを演じたのが当時27歳のリンダ・ハミルトン。
まだ、だったリンダですが、この『ターミネーター』のヒットでブレイクを果たします。
『ターミネーター』は紛れもなくサラ・コナーの物語なのでした。
リンダ・ハミルトンは続編の名作『ターミネーター2』にも出演。
『ターミネーター2』のサラ・コナー
今作ではサラははサイバーダインへのテロ容疑で捕まり、精神病院へ監禁されています。
この精神病院へ収監されているというアイデアはリンダ・ハミルトン自身が提案したものだそう。
一方の息子のジョンは母親サラの話す世界の終幕と自分自身が人類の救世主であるという話を信じられずに、養父母のもとで非行に走る日々を過ごしていたのでした。
この作品でのサラ・コナーはまさに戦士として描かれています。
銃火器の扱いに長け、ジョンを育て上げるためなら誰とでも寝て、サイバーダインを壊滅させるためには手段を選ばない。のちの『ターミネーター:ニュー・フェイト』ではサラがポテトチップス好きという意外な一面が明かされましたが、今作ではそういう嗜好性などの彼女のパーソナルな部分は一切描かれていません。
目的のためなら手段を選ばない。
『ターミネーター2』では、T-800、ジョン・コナー、サラ・コナーそれぞれの成長が描かれています。
サラ・コナーは戦士の状態からその人間性を取り戻していくところでしょう。
サイバーダインの開発責任者のダイソンを暗殺しようとしたサラ。
しかし、ダイソンは幸せな家庭を持った一市民であり、またダイソン自身、自分の研究が未来にどう影響するのか全く知るよしもありませんでした。
ダイソンへ向けて銃を乱射するサラですが、必死に父ダイソンをかばう子供の姿にどうしても最後の引き金を引くことができません。
『ターミネーター2』において、T-800が殺人マシンから、人の心を理解する絶対的な保護者へと成長してゆくのとは対照的に、サラはどんどん機械のように、強硬的に目的のためなら手段を選ばない人物に変貌していっていたのです。
そのピークがこのダイソン暗殺の場面ですが、ここをピークにサラは人間としての自分を取り戻していくようにも見えます。
そして、殺人機械のターミネーターが命の価値を学べた事実に希望を見いだすのでした。
さて、『ターミネーター2』以降のサラ・コナーは作品によって解釈が分かれます。
『ターミネーター3』のサラ・コナー
『ターミネーター3』では既に故人になっていますが、その墓のなかは銃火器で埋め尽くされており、未来を見届けながらも、決して油断しない正にサラらしい描かれ方だったと言えるでしょう。
『ターミネーター4』のサラ・コナー
『ターミネーター4』でも基本的にこの路線を引き継いでいます。
『ターミネーター4』にはリンダ・ハミルトン自身は出演していないものの、声の出演という形で登場しており、ターミネーターと未来世界における全ての出来事をテープに残しておいたのでした。
では、分岐した未来ではサラ・コナーはどう描かれているでしょうか?
『ターミネーター2』の正当な続編として公開された『ターミネーター:ニュー・フェイト』。
『ターミネーター:ニュー・フェイト』のサラ・コナー
この中では、前述のようにポテトチップスが好きといったような人間味を感じさせる描写がある一方で、ターミネーターに対する憎しみはさらに増し、『ターミネーター2』のラストでT-800と握手を交わしたサラ・コナーはいなくなっているようにも見えます。
もちろん、サラにとってはターミネーターに「未来」を奪われるような耐え難い悲劇がありましたし、監督のティム・ミラー自身、サラ・コナーの大きな動機のひとつとして怒りを最大限に持たせたキャラクターにしたいという思惑もありました。
ティム・ミラーは『ターミネーター』とその続編である『ターミネーター2』をサラ・コナーのストーリーだと明言していました。
そこにいるサラ・コナーは『ターミネーター2』の序盤より更なる深い闇にいるのです。
サラ・コナーにとって希望とは何か
サラ・コナーにとって一体希望とは何だったのでしょうか。
サラは『ターミネーター』シリーズを通して、幾度となく絶望と悲しみを経験してきました。
『ターミネーター』ではT-800に親しい人と、愛する人を殺され、自身の命も狙われます。
『ターミネーター2』ではジョンと離ればなれになり、『ターミネーター:ニューフェイト』ではそのジョンすら失ってしまいます。
『ターミネーター2』まではジョンの存在がサラにとっての希望でした。
ジョンの存在そのものが未来を変える鍵だったからです。
『ターミネーター3』においても、作中では既に故人になっていますが、「(審判の日が来なかったことを)見届けて死んだ」とのジョンの台詞があります。
サラにとってはジョンと平和な未来の可能性が希望であったのです。
そんな希望が何もかも打ち砕かれたのが『ニューフェイト』の世界なのでした。
『ターミネーター:ニューフェイト』と『ダークフェイト』
ちなみに『ターミネーター:ニューフェイト』は邦題であり、原題は『ターミネーター ダークフェイト』になります。
このタイトルの違いが実は作品の表すものを著しく変えてしまっていることに気づいた人は果たしているでしょうか?
邦題の『ニューフェイト』が指しているものは文字通り新しい運命。
これは旧来のスカイネットと人類の争いではなく、リージョンと人類の争いとなった未来を指して「新しい運命」だと言っているのです。
では原題の『ダークフェイト』。これはサラ・コナーの人生を指しているのではないでしょうか。
機械も人間の命の価値を学べたことに人類への希望を見いだしたサラですが、『ターミネーター:ニューフェイト』ではそんな希望が何もかも打ち砕かれたことが明かされます。
そんなサラの運命こそが闇のようにただただ暗い。まさに『ダークフェイト』です。
「ジョンのために」その想いからずっとターミネーター狩りを行っていたサラ・コナー。
しかし、そこには希望はありません。ただ、「生きる理由」があっただけ。
更にグレースからスカイネットと戦う未来は回避されたものの、新たにリージョンというAIとの戦争が起きており、「機械との戦争」という運命は変えられなかったことを聞き、あらためて人間の愚かさを嘆くようにもなります。
そんなサラを変えたのはダニ・ラモスとの出会いでした。
ターミネーターに狙われる若い女性。それはかつての自分そのものでした。
そして、彼女自身が人類の新しい救世主であるということ。
「あなたがジョンなのね」
ダニ・ラモスはサラにとって自分自身であり、また失った息子、ジョン・コナーでもあったのです。