「HERO」(2015) ドラマの映画化はどうしてこうも間違えるのか?  

「HERO」は2015年に公開された日本映画。
2001年、2013年に放送されたテレビドラマ「HERO」の劇場版第二作目になります。

主演は木村拓哉と8年ぶりにシリーズに復帰した松たか子。

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「HERO」(2015)のスタッフ・キャスト

監督
鈴木雅之

脚本
福田靖

製作
亀山千広
島谷能成

製作総指揮
日枝久
松岡功

出演者
木村拓哉
松たか子
北川景子
佐藤浩市
杉本哲太
八嶋智人
濱田岳
小日向文世
吉田羊
正名僕蔵
松重豊
角野卓造
大倉孝二
田中要次
勝矢
森カンナ
新井浩文
イッセー尾形
児嶋一哉

「HERO」(2015)のあらすじ

感想・レビュー

テレビドラマ版のHEROはリアルタイムで毎週観ていました。それまであまりフォーカスされなかった検事という職業をテーマにしたのも斬新でしたし、逮捕と起訴の重みの違いも描けていたと思います。

さて、今作はHEROの劇場版の2作目。

2014年のHEROのシーズン2を経ての映画化となります。
基本的にはシーズン2のレギュラーメンバーがメインとなるわけですが、シーズン1のヒロインである雨宮舞子が検事となってメインキャストに復活を果たしています。

今回は事件の捜査の仮定で外国の大使館が絡んできます。日本の国内でありながら大使館の敷地内は日本の領土ではなく、国内法の及ぶ場所ではない。そのために久利生をはじめとする城西支部のメンバーに数々の困難が待ち受けています。

HEROの面白さとは基本的には逮捕された被疑者の行動を徹底的に洗い出し、犯行をした、もしくはしなかったという証拠を見つけ出すというカタルシスにあるのだと思います。

一旦逮捕されているので、何らかの疑わしさはある、刑事物であれば逮捕までで終わりで、起訴するかどうかは検察に委ねるので、逮捕された時点で不利な状況にあるのですが、そこからさらに起訴・不起訴につながる決定的な証拠を探すのです。
もちろん、検事にも捜査権は保証されているものの、現実には仕事のほとんどはデスクワークであり、捜査をするのは特捜部が動くようなごく一部の重大な事件だけだそうですが。

今作『HERO』においては大使館内は地外法権であり、その中で起きることを解明することが事件の鍵となっています。

冒頭は何者かに追われる被害女性の場面。
スローモーションや残像などかなりの凝った演出を盛り込んでいますが、そのどれも「追われている」という緊迫感を削ぐだけの結果になっています。
むしろ、演出が過剰なせいで、観ている方には「これは女性の夢なのではないか?」とも思えてしまうのです。
もちろん、それが狙いならいいのですが、どうやらそうではないようで。。

映画全体を通して、どうもお金をかける所を間違えてしまっています。

まぁこれはHEROに限らず、テレビドラマが映画化されるときによくあることでもあるのですが。

他にもペタンクという競技を大使館のメンバーと城西支部のメンバーでプレイするシーンでは、ペタンクのボールをドアップのCGで作成し、かつボールの数々を宇宙になぞらえるという謎の演出が。BGMも丁寧に『2001年宇宙の旅』のツァラトゥストラはかく語りき。
宇宙が何かの伏線になっているということもなく、とにかく意味のわからない演出なのです。

このように枝葉の部分にお金を使うのではなく、もっと中核のストーリーそのものに費用をかけてもよかったのではないでしょうか。

加えて、どうしてもスケールの大きさを描きたいのか、テレビドラマを映画化すると、そのとたんに舞台が急に国際化してきます。

今回はネウストリア公国という架空の国家が敵役の組織として設定されていますが、ここで架空の国家というのも、いかにもフィクションという感じがして興ざめになります。
もちろん、ネウストリアが現実にかつて存在した国家であり、その事からも架空の国家と言えど、少しでもフィクション感を無くそうとした製作陣の思いは伝わるのですが。

言わば国際化というのは物語を広げる上での横軸です。
検察庁などの上の組織を描くのは縦軸と呼べるでしょう。
一般的なスケール感という意味では横軸の方が大きく感じやすいかもしれませんが、ドラマという意味では縦軸の方がより濃密にできたはずなのです。
そして、HEROの魅力とはドラマ性であり、決してバラエティ性が先に来るものではありません。

特に今作では木村拓哉はじめ、松たか子、佐藤浩市など演技の上手い俳優がメインキャストに揃っていただけに余計にそう思います。

脚本もそれなりにHEROらしさはあり、松たか子演じる雨宮舞子と城西支部の面々とのやり取りも楽しく、一気に終わりまで観せてくれるパワーはあるのですが、やはりちょこちょこ無理のある設定も気になります。

ヤクザのトラックが突っ込んでくるような安易なアクションに流されてはダメなのです。一般人、それも検事に対して普通ここまで事後処理が面倒になることをするでしょうか?

またパーティーゲストとして潜入した大使館で証拠を見つける久利生と雨宮が、大使館員に捕まるシーンでは、大使の超法規的措置とも言える行動で釈放されますが、もし法を犯した上での証拠の発見であれば、それは証拠品として採用されないのではないでしょうか。
ちなみに、パーティーのそれもスピーチの最中に行動する二人は流石に目立ちすぎます。。

さらに大使館で大使と面談する久利生ですが、相変わらずの私服。第一シーズンで法廷に立ったときはジャケットを羽織っていたのに、この場ではそれすらない。逆にこの場面でこそジャケットなりフォーマルをどこかに感じさせるファッションをさせていれば、映画ならではの「特別感」が出たはずです。
これでは久利生が文字通り空気の読めない男で終わってしまいます。

根底にはしっかり『HERO』らしさがあり、楽しめる作品ではあるのですが、どうも広げかたを間違えてしまっている作品だという印象が拭えない今作。

ただ、久しぶりに久利生と雨宮のやり取りが見たい!という人には間違いなくオススメです。

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