今回は石田祐康監督のアニメ映画『ペンギンハイウェイ』の謎を考察します。
ちなみに『ペンギン・ハイウェイ』の名言・名セリフ集はこちらから
劇中、『海』という謎の物体が現れました。『海』はハマモトさんのお父さんをはじめとする研究員を飲み込む、触れると危険なものとして表現されています。
果たして『海』とは何を意味しているのか、また海の大きさと連動して元気になったり、または体調を崩してしまうお姉さんはいったいどんな存在なのか。
映画でははっきりと示されなかったその正体についても、原作やインタビューを参考に見ていきたいとおもいます。
まず、『ペンギン・ハイウェイ』って何?と言う人のために簡単に概要をお話ししますね。
「ペンギン・ハイウェイ」とは
『ペンギン・ハイウェイ』は2018年に公開された石田祐康監督の映画。
スタジオ・コロリド初の長編アニメーション作品です。
声の出演は北香那さん、蒼井優さん、西島秀俊さん、竹中直人さんなどが担当されています。
「ペンギン・ハイウェイ」の予告編
ペンギンハイウェイのあらすじ
小学四年生のアオヤマ君は、一日一日、世界について学び、学んだことをノートに記録している男の子。利口な上、毎日努力を怠らず勉強するので、「きっと将来は偉い人間になるだろう」と自分でも思っている。そんなアオヤマ君にとって、何より興味深いのは、通っている歯科医院の“お姉さん”。気さくで胸が大きくて、自由奔放でどこかミステリアス。アオヤマ君は、日々、お姉さんをめぐる研究も真面目に続けていた。
夏休みを翌月に控えたある日、アオヤマ君の住む郊外の街にペンギンが出現する。街の人たちが騒然とする中、海のない住宅 地に突如現れ、そして消えたペンギンたちは、いったいどこから来てどこへ行ったのか……。ペンギンヘの謎を解くべく【ペンギン・ハイウェイ】の研究をはじめたアオヤマ君は、お姉さんがふいに投げたコーラの缶がペンギンに変身するのを目撃する。ポカンとするアオヤマ君に、笑顔のお姉さんが言った。
「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか?」
一方、アオヤマ君と研究仲間のウチダ君は、クラスメイトの ハマモトさんから森の奥にある草原に浮かんだ透明の大きな 球体の存在を教えられる。ガキ大将のスズキ君たちに邪魔をされながらも、ペンギンと同時にその球体“海”の研究も進めて いくアオヤマ君たち。やがてアオヤマ君は、“海”とペンギン、そしてお姉さんには何かつながりがあるのではないかと考えはじめる。
そんな折、お姉さんの体調に異変が起こり、同時に街は 異常現象に見舞われる。街中に避難勧告が発令される中、 アオヤマ君はある【一つの仮説】を持って走り出す!
果たして、 お姉さんとペンギン、“海”の謎は解けるのか― !?
『ペンギン・ハイウェイ』に込められた想い
まずは前提として原作者の森見登美彦氏が『ペンギン・ハイウェイ』に込めた思いをみていきましょう。
森見登美彦氏が『ペンギン・ハイウェイ』執筆時にまず出発点にあったのは「郊外」を舞台にした物語で、子供のころに見ていた風景や、子供ならではの妄想を描きたいという想いだったそうです。
中心のアイデアとして“世界の果て”みたいな、そこから先に行けない不思議な場所が、自分の家の近所にあるんだという子供の頃のイメージを描こうと考えたわけです。そこからだんだん考えが広がって、子供たちの身のまわりにある”世界の果て”が入ってきた。子供の頃って、世界の成り立ちとか、死んだらどうなるのか?など、大人が日常の生活であまり深く考え込まないようにしていることを、考えるじゃないですか。
そこにまともに向き合うというか。
そこの具体例として出てくるのが「海」だとか「お姉さん」だと森見登美彦氏は述べています。
小説の中で具体的に出て来るのは森の奥の草原にある「海」という存在だけど、それだけじゃなくて、本当は自分にはよくわからない年上のお姉さんだって謎だし、自分が死ぬという、生き物はみんな死ぬというのも謎であって、いろんな形での“世界の果て”がある。
そういう、子供たちがつきつめて考えて、ここから先はどうなっているんだろう?と思う、いろんな形の“世界の果て”みたいなものを全部入れようと。そういう風に考えると、いろんなところで我々は“世界の果て”に囲まれている、というか、それは解釈によっては「死」というものだし、それが無常観みたいなものに繋がっているのかもしれない。アオヤマ君が活き活きと謎に立ち向かっているから、怖さというものが少し薄められているんだけど、あちこちに深い穴が開いている、そういう小説ではあると思います。
原作でも表現されていますが、こうしてみると、海もお姉さんも『自分の手が届かないもの、自分の支配が及ばないもの』とも言えるかもしれません。
『海』とは何か?
主人公のアオヤマくんのクラスメイトのハマモトさんがそう名付けた不思議な物体、通称『海』。
簡単にいうと見た目は水のような物質でできた浮遊する球体です。
映画ではハマモトさんのお父さんをはじめとする研究員を飲み込む、触れると危険なものとして表現されています。
他にも、町の水路を辿っていくと、海のある草原のところで、水路の上流と下流は繋がっていることがわかります。
海の回りではそんな物理法則を無視したことさえも起こっているのです。
また映画版に描写はありませんでしたが、原作では『海』に飲み込まれたスズキくんは時間を巻き戻した世界にタイムスリップしてしまいます。
アオヤマ君は海をこう推理します。
世界の果てであり、世界の壊れたところだと。
『ペンギン・ハイウェイ』には子供の研究というカモフラージュで全体にうまく覆い隠されているのですが、死とは何か、世界の果てには何があるのか、ということが示されています。
世界の果てのひとつとしてアオヤマ君が話していたのがブラックホールでした。
ここで、ブラックホールと、それの出口となる別宇宙へ繋がる道をワームホールとするという説を前提に話を進めると、草原に浮かんだ『海』はこの世界の果てに通じるブラックホールとワームホールのようなものだと言えます。
※実際にウィキペディアにのっているワームホールが地上にあった場合の想像図は海そっくりです!
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB
ワームホール – Wikipedia
当然、ブラックホールが大きくなったら危険ですよね?
それを食い止めるのがお姉さんであり、お姉さんの生み出すペンギンなのでした。
お姉さんの正体とは?
お姉さんはペンギンを生み出し、ペンギンは唯一海を攻撃できる存在です。
しかし、お姉さんの体調は海の大きさと連動しているので、海が最終的に消えてしまうと、お姉さんも消えてしまいます。また、お姉さんのエネルギー源(アオヤマ君がペンギンエネルギーと呼ぶもの)は『海』から離れるにつれて少なくなっていくので、電車で海へいこうと街を出たお姉さんは体調が悪くなってしまうのです。
劇中でアオヤマ君はペンギンたちの役割を『海を壊すことで、世界を修復している』と推理しますが、となると、お姉さんの役割は『世界を修復すること』であり、ただ、それだと自分自身が弱ってしまうため、自己防衛本能的にペンギンを食べるジャバウォックを出していたと考えられます。
恐らくクライマックス、ペンギンが海を破壊しだしてもお姉さんが元気だったのは恐らくは海の中にいたからではないかと思います。
そして、危険なものであるはずの海の中はお姉さんが話していた『海辺の町』を再現したような世界が広がっていたのでした。
惑星ソラリス
原作者の森見登美彦氏が本作の執筆時に影響を受けた映画がタコルフスキー監督の『惑星ソラリス』。
この映画にも海が登場しますが、その海は知性をもち、そこに近づいた人間に幻影を見せているのです。
ソラリスの設定を『ペンギン・ハイウェイ』に置き換えると、海辺の町が海の中に広がっていたのはお姉さんの想いを具現化したからとも言えます。あくまで仮説のひとつですが。
海の中の風景についてもうひとつの仮説はお姉さんは海から生まれて、その海の景色を『子供の頃の記憶』として覚えている可能性です。
実際のところ、残念ながら(?)お姉さんの正体は原作でもわからないままです。
しかし、後者の説を考えたときに、お姉さんの正体がおぼろげながら見えてくる気がするのです。
僕が考えるそれは、『お姉さんは神様の子供みたいな存在ではないか』というもの。
お姉さんが『海』で生まれたとすれば、それは地球の歴史において生命が海から誕生したことのメタファーそのものでしょう。
そして、その地球が神様が作った秩序(そのひとつが物理法則)に則ったものであるならば、明らかに『海』の存在はいわゆるバグや未完成品みたいなものとも言えます。
それを補修する役割、それができる人はまさに『神様』と呼ぶにふさわしい存在です。
それに、物語の筋から言っても、アオヤマ君が憧れていたお姉さんが実は人外の存在だったとしても、正体が悪魔だったとか、化け物だったとかは小説のカラーにはそぐわないからねぇ。。
アオヤマ君はお姉さんが『人間ではない』という答えにたどり着きますが、それはアオヤマ君にとって悲しい別れをもたらすものでもありました。
子供はその純粋な好奇心ゆえにどこまでも純粋に掘り下げようとしますが、大人であるアオヤマ君のお父さんは『調べない方が傷つかなくてすむ問題もある』と言います。
結果的にそれは海でありお姉さんのこと。
どちらも、アオヤマ君には完全には理解できない『世界の果て』でした。
ただ、アオヤマ君だけでなく、『世界の果て』が何かは私たちでも恐らくは永遠にわからない謎です。
『ペンギン・ハイウェイ』はお姉さんの声で
「君にはこの謎が解けるか?」
と呼び掛けているようにも思えます。
『ペンギン・ハイウェイ』深く知るには原作本はマスト!
映画では描かれなかった部分もあって、より作品の世界観や背景、それぞれの関連を詳しく知ることができます。
映画鑑賞後の余韻に浸っていたい人にもおすすめ。
ペンギン・ハイウェイ 公式読本はこちら
原作者の森見登美彦氏のロングインタビューやアオヤマ君の前日譚を描いた短編小説「郵便少年」、書き下ろしエッセイ「ペンギンなのにハイウェイ」などが収録されています。
キャストやスタッフのインタビューに加え、原作者の森見登美彦氏と映画版の石田祐康監督の対談も掲載されています。