【レビュー】「羊たちの沈黙」サイコホラー映画の名作!

羊たちの沈黙(特別編) [DVD]

「羊たちの沈黙」は1991年公開のアメリカ映画。トマス・ハリス原作の小説を「刑事グラハム」に引き続き実写化した作品です。監督はジョナサン・デミ。主演はジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンスが努めています。

アカデミー賞主要5部門をすべて制覇した数少ない作品の一つ。サイコスリラーの名作です!

怖いけれど、面白く、どこか美しい。おすすめの映画です。

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「羊たちの沈黙」スタッフ・キャスト

監督
ジョナサン・デミ

脚本
テッド・タリー

原作
トマス・ハリス

出演者
ジョディ・フォスター
アンソニー・ホプキンス
スコット・グレン
テッド・レヴィン

「羊たちの沈黙」のあらすじ

ミズーリ州のカンザスシティなどアメリカ各地で、若い女性が殺害され皮膚を剥がされるという連続猟奇殺人事件が発生していた。
逃走中の“バッファロー・ビル”と呼ばれる犯人は、その犯行内容から全米の関心を集めていた。

FBIアカデミーの訓練生で野心的なクラリス・スターリングは、行動科学課 (BSU)のクロフォード主任捜査官からバッファロー・ビル事件のためにある任務を課される。

それはバッファロー・ビルの心理状態を分析するために、ボルティモア州立精神病院に収監されている凶悪殺人犯で元精神科医の囚人ハンニバル・レクター博士へ協力を要請させるというものだった。

ハンニバル・レクターは食人行為などの猟奇的犯罪から「人食いハンニバル」と呼ばれるものの非常に高度な知的能力を持ち、高い教養を備えるなど塀の中にあっても論文を発表するなど高い影響力を保持している。

FBIへの協力を拒絶していたレクター博士は当初クラリスへも協力を拒んでいたものの、バッファロー・ビルの情報を与える見返りに、クラリスに彼女自身の過去を語らせることと引き換えに助言することを約束する。
そこでクラリスは父親の死と、それから預けられた叔父の家で屠殺される羊たちを目撃したこと、そして子羊を助けようとしたが、結局助けることができなかったことがトラウマになっていることを白状した。

一方、新たに上院議員の娘がバッファロー・ビルに誘拐されてしまう事件が発生。院長のチルトンは、自身の出世のためにレクター博士を上院議員に売り込む。議員は、レクターの捜査協力の見返りとして、レクター博士を警備の緩い刑務所へ移送させることを約束しますが、それはチルトンの罠でもあった。しかし、レクター博士はそんなチルトンの思惑にはとうに気づいていた。移送の際にあえて議員に侮辱的な質問を投げかける。そのときの議員の反応からか彼女の人間性を判断したレクター博士は議員に犯人の本名を伝えるがそれは全くのでたらめ。そんなレクター博士は移送の隙をついて病院の職員や警察官を殺害。ゆうゆうと脱獄を果たす。



感想・レビュー

今までにアカデミー賞主要5部門をすべて制覇した作品は「或る夜の出来事」「カッコーの巣の上で」「羊たちの沈黙」の3作品しかなく、とりわけサイコ・サスペンス/ホラー系の作品が作品賞を獲ったのは異例ともいえます。

幼いころのトラウマ映画でした

はじめてこの作品を見たのは小学生の頃でしたが、初めの30分くらいで怖くてたまらなくなり、見るのをあきらめた記憶があります。
劇中の精神病棟のあの雰囲気がものすごく不気味で恐ろしかったですね、、、。

鉄格子から伸びる何本もの腕。伸ばす先にいるクラリスと収監されている彼ら。
両者は完全に対称的なのですがまるでその腕はクラリスを引きずり込もうとしているのか、助けを請うているのか、ただの欲望でしかないのか。。。いずれにせよそのさまがとても怖かったです。
同じようにこの作品がトラウマだっていう人、割といるんじゃないでしょうか。
オトナになってみれば脚本のすばらしさや、演出の美しさなど、面白さもわかってきたのですが。
昔はこんな映画や「ザ・フライ」のようなグロテスクな映画も普通にゴールデンタイムで放送されていたんですよね。。。懐かしいです。

犯罪者でありながら紳士的。レクター博士の魅力とは

アンソニー・ホプキンスの当たり役でもあるハンニバル・レクター博士。この映画において避けて通れないところだと思います。
「狩人の夜」のように、犯人が善人で理性的な落ち着いた人間のふりをしている、というのはそれまでも散見されましたが、レクター博士のそれは犯罪者でありながら紳士的であり、趣味も上品という、斬新なものでした。

ただし、レクター博士は単なる殺人者ではなく、「殺した人間を食べる」という異常性も持ち合わせています。
「世に野放しになっている無礼なやつを食らうのだ」というセリフがありますが、基本的には博士に対して失礼な態度や生活するうえで邪魔な人物(「ハンニバル」でいえばパッツィや前任の司書)が中心のようです。
クラリスに対して失礼な態度をとった囚人のミグスに対しては、それまでの冷静さを失くすほど怒りを露わにしています。
そしてその晩、言葉だけでミグスを死に追いやるという離れ業をやってのけます。

異常者でありながら理知的かつ紳士的な態度。そして論理的な会話で心理的に人を追い詰める鮮やかさ。劇中では最高レベルの監視のついた独居房へ収監されていますが、囚人の身でいながらも専門誌に論文を投稿したり、世界中からファンレターをもらうなど人気も高い描写がなされていますが、現実の世界でもやはり独特の魅力のある悪役ですね。
続編の「ハンニバル」ではイタリア語を交えダンテの詩を解説したり、看守のバーニーにフェルメールの魅力を教えたりと教養高い人物としても描写されています。


父親的な存在から特別な感情へ変わっていく

そして緻密に練られたストーリーがこの作品の最大の面白さでしょう。
ストーリーの大きな柱はバッファロー・ビルの逮捕ですが、
その目的に進む中でクラリスとレクターの関係はめまぐるしく変わっていきます。
ヒントを提示し、事件への道筋を示してくれる博士はまさに劇中では「父親的」な存在だとも言えるでしょう。
嘘の収容先の変更に関しても博士が寛容でいたのは、それがクラリスの本心ではないことを見抜いていたからではないでしょうか(逆に真の立案者であるチルトンは以前から殺意を抱いていた様子)。
唯一、別れのシーンで指が触れる描写。あれは唯一ロマンスを感じさせる描写であり、訓練生と囚人という関係性ではもはやない(きちんとした信頼関係、特別な感情が芽生えている)ことを示唆しています。

その直後博士の脱走の知らせを聞いた時も心配するルームメイトに「私のところには来ないと思う」とはっきりクラリスは明言しています。

これはレクタ博士にとってクラリスは捕食対象ではない(失礼な人間ではない=認められた存在)であることを示しています。

ただそれはあくまで何もかも対等というわけでもなく、いうなれば上司と部下、先生と生徒のような関係でしょう。

前述したとおりストーリーの大きな柱はバッファロー・ビルの逮捕ですが、
映画の始まりと終わりを比べれば、これはクラリスの成長の物語であり、
レクターの自由を得るための脱出劇であり、前述したようにその両者が関係を構築していく物語でもあります。

特にこの作品のタイトルにもなっている「羊たち」は幼いクラリスが守ることのできなかったトラウマの象徴です。バッファロー・ビルにとらわれた上院議員の娘を助け出すことはクラリスのトラウマから抜け出すための大きな命題でもあるのです。

しかし、ラストシーンで「羊たちの悲鳴は止んだか?」と問うレクターに黙ったままのクラリス。果たして今回の事件をきっかけに羊たちの悲鳴はやんだのかは謎のままです。



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